人生の3大支出のひとつ「マイホーム」。大きな額となる買い物のため、ほとんどの人がローンを利用しますが、返済できなくなるリスクは誰にでもあります。本記事では、FP1級の川淵ゆかり氏がAさんの事例から、住宅ローンを滞納するとどんなことが起きるのか、また、滞納前にすべきことについて、解説します。
「惨めです。」年収1,200万円だった65歳・元エリート会社員がまさかの〈住宅ローン破産〉…頭をよぎる「競売」の2文字【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

住宅ローンを滞納すると…

1.督促状

住宅ローンを滞納し始めて、1ヵ月後ほど経過すると「督促状」が送られてきます。この時点で遅れている分を支払うか、もし、今後支払える自信がないのであれば金融機関に相談すれば毎月の返済金額など相談に乗ってくれます。後日支払えるのであれば、「遅れていますが、〇月〇日には支払います」と必ず伝えるようにしましょう。

 

2.催告書

督促状に従わずに放置すると、次に「催告書」が送られてきます。この催告書も無視し、記載されている期日までに支払いができないと、分割払いの権利を失うことになり(期限の利益喪失)、一括でローンの残債分を支払わないといけないことになります。できるだけ早く金融機関に連絡・相談しましょう。事情を説明すれば、毎月の返済額やボーナス払いの金額、返済期間の延長などを検討してもらえます。返済期間が延長すると総返済額が増えてしまいますが、住まいを手放したくない場合は致し方ありません。

 

3.期限の利益の喪失通知書

滞納後3~6ヵ月を経過してもなにも対応を取らないと「期限の利益の喪失通知書」が送られてきます。これは、住宅ローンを分割で支払う権利がなくなることを意味しますので、この通知書が届いた時点で、残った住宅ローンを一括で支払わなければいけません。「任意売却」などを真剣に考える必要があります。

 

4.代位弁済通知書

「期限の利益の喪失通知」が届き、しばらくするとローン保証会社から「代位弁済通知書」が送られていきます。 これはローン保証会社が債務者の代わりにローンの残金を支払ったことを知らせる書類です。これにより、債権は銀行から保証会社に移されます。保証会社が代わりに支払ったからといっても、ローンの返済義務はなくなりません。以降は保証会社に対し、遅延損害金も含めたローンの残金を返済することになります。

 

5.競売開始決定通知書

保証会社への支払いができないと、保証会社は地方裁判所に「競売」の申し立てを申請します。 この申し立てが認められると、不動産が差し押さえられてしまい、競売の手続きが開始されることとなり、「競売開始決定通知書」が裁判所から送られてきます。

 

6.現況調査通知

「競売開始決定通知書」が届いて数週間後には、裁判所から「現況調査通知」が送られてきます。これは、物件の競売基準価格を査定するため、裁判所の執行官が訪問する、という内容で、訪問日時などが記された書類です。訪問すると物件の写真撮影や周辺の調査のほかに近所への聞き込みもされる場合があります。

 

7.期間入札開始決定通知

現況調査が終わると競売が始まったことを知らせる「期間入札開始決定通知書」が裁判所から送られてきます。裁判所の売却許可決定が出ると売却は確定し、落札者が入金を済ませたら、物件の所有権は落札者に移され、この時点でマイホームからは退去しなければなりません。

 

住宅ローンを滞納し続けると、金融機関や裁判所などから上記のような通知書が届くようになります。できればこうした通知書が届く前に、金融機関に電話でもいいので事情を説明して相談するのがベストです。実家に余裕があれば、借り入れや生前贈与なども検討してみましょう。

これ以上の支払いが難しいと思ったら…

「惨めです。」Aさんはポツリとこぼします。しかし、落ち込んでいるあいだも支払いは待ってくれません。いまからできることをしていきましょう。

 

住宅ローンを滞納し早めに金融機関に相談をせずに放っておくと上記(7)のように家を失ってしまう危険性が出てきます。さらに売却したからといって住宅ローンがきれいさっぱりなくなるとは限らないのです。残りの住宅ローンが売却価格を上回ると「オーバーローン」といって、住宅ローンは完済せず、住宅ローンの不足分は返済する義務があります。


「住む家もなくなり、さらに住宅ローンも終わらない」という最悪の事態になってしまいます。

 

できるだけオーバーローンを避けるためにも物件はできるだけ高く売らないといけません。競売の場合、競売の売却価格は市場相場の5割~7割と著しく安くなってしまいます。ですから、売却するのであれば「競売」ではなく「任意売却」するようにしましょう。


しかし、任意売却も簡単にはできません。任意売却には、債権者の合意が必要となります。そのためにも金融機関への早めの相談が重要になるのです。

 

なお、リースバックという方法もあります。リースバックとは、物件を売却した後に新たに賃貸借契約を締結することで、家から離れずに住み続けられる方法になりますが当然家賃を払わないといけません。

「返済期間の後半」に苦しくなりがちな住宅ローン

筆者は相談者の方に「住宅ローンは折り返した返済期間の後半が大変ですよ」とよく言います。

 

「住まいを購入しよう!」と思うときは家計に余裕があるときです。そのため、当初の予算を多少オーバーしても「返せるだろう」と思ってしまいます。

 

住宅ローンの返済が始まってから十数年も経つと、転職したり、収入がダウンしたり、Aさんのように介護が始まったり、と当初は考えてもいなかったことが起きます。家族の年齢や家庭環境をよく考えて、余裕を持ったローン計画を考えましょう。
 

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表