若いころは健康に自信があった人でも、年を重ねることで病気やけがのリスクは格段に高まります。健康を損ねる可能性を見据えて老後の資金計画を立てなければ、後々大きな後悔をすることも……。本記事ではNさんの事例とともに、老老介護の危険性についてFP dream代表FPの藤原洋子氏が解説します。
「やっぱりお金返して…」年金月27万円の夫婦、67歳・元大企業部長の夫が“老人ホーム入居”で老後破産…〈子への生前贈与2,000万円〉を返金請う惨め【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

資金は潤沢、余裕の老後をスタートさせたはずだったNさん夫婦

Nさん(67歳)は、首都圏にお住まいです。現役時代は大企業の部長職としてお勤めでした。60歳の定年後は、役職からは外れましたが、会社の継続雇用制度を利用し65歳まで仕事を続けました。退職後は、知人の経営する会社で週3日、事務を行っています。

 

家族は、妻(60歳)と長女(37歳)、長男(35歳)です。長女は10年前に嫁ぎ関西に住んでいます。長男も3年前に結婚しました。長女には2人、長男には1人子供が生まれました。Nさん夫婦には、目に入れても痛くないほど可愛い孫が3人います。

 

妻は、大学を卒業後Nさんと結婚してからは、子育ての傍らいくつかのパートを経験しました。57歳のときに仕事を辞めて、現在は専業主婦です。Nさんは、夫婦や子ども達の家族との時間を楽しんでいました。

 

Nさんの退職金は2,500万円、貯蓄は2,500万円ありました。65歳で退職したときに、長女、長男それぞれに子育てに使うお金として1,000万円ずつ渡しました。父母や祖父母から子育てに充てるための贈与には、受け取った人が18歳以上50歳未満までであれば、1,000万円まで贈与税がかかりません。

 

65歳以降は、Nさんの年金が月額約20万円、知人の会社でのアルバイト代15万円が主な収入です。妻が65歳になれば年金が月額約6.6万円、夫婦の年金は27万円受け取ることができます。Nさんも妻も、もともと浪費をするタイプではなく、生活費は2人で月22万円程度しかかかっていません。貯蓄3,000万円があり、持ち家のローンは終わっており、老後資金は余裕だろうと考えていました。

 

Nさんの体に異変が…

Nさんは、近ごろ体調の大きな変化を感じていました。

 

「なんだか足腰がこわばってスムーズに歩けない……。まだまだ若いと思っていたけれど、年には勝てないな」とあまり重く考えないようにしていました。若いころから大きな病気やけがをしたことがなかったので、Nさんは楽観的だったのですが、そばで心配する妻の強い勧めもあり、念のため病院で診察を受けることに。すると、進行性の病にかかっていることがわかりました。

 

やがて移動する際には車いすが必要になるようになりました。妻は、できる限りのことはしようと頑張っていましたが、Nさんはいらだちをついつい妻にぶつけてしまうことも多くなっていきます。夜中に妻を起こすこともたびたびで、夫婦お互いに疲れが増している様子が続きました。

 

ある日、立ち上がろうとしたNさんを支えようとした妻は、Nさんの体重を支えきれず、一緒に転んで骨折してしまいました。運よくたまたまNさんの孫とともに遊びにきていた長男が病院に連絡し、2人とも入院することになりました。

 

これを機に、今後も妻が1人でNさんの介護を続けていくことは難しいと判断されます。長女や長男ともいろいろ検討した結果、Nさんは、医療サービスがスムーズに受けられる、病院併設の有料老人ホームに入居を決めました。

 

老人ホームに入居ことになったNさん

病院併設の有料老人ホームの、入居一時金は30万円、月額費用は25万円です。Nさんは、現在の仕事を続けることはできなくなります。また、Nさんの年金20万円から25万円の支払いをしなければなりません。

 

資産は3,000万円ありますが、妻の生活費と合わせて年間300万円かかるとすると、10年で破産する計算です。

 

「本当にごめんなさい。生前贈与のお金をやっぱり返して欲しいの」

 

追い詰められたNさんの妻は恥を忍んで涙ながらに長女と長男に連絡しました。しかし、2,000万円の贈与契約は、簡単には解約することはできないことがわかります。