収入減が年金のみとなる人が多い老後、誰もが少なからぬ不安を抱いていることでしょう。しかし、日本の高齢者の「貯蓄事情」をみてみると、統計上はかなり余裕のある世帯が多いことがわかります。とはいえ、日本で破産に至る人の4割が60代以上だというデータもあり、まだまだ油断はできなさそうです。詳しくみていきましょう。
年金月22万円の65歳夫婦…“貯蓄2,500万円”あっても「老後破産とは無縁」と言い切れないワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

誰もが負っている「老後破産」のリスク…3つの典型パターン

あくまで統計上は、かなりお財布に余裕がありそうにみえる日本の高齢者。

 

しかし、日本弁護士連合会『2020年破産事件及び個人再生事件記録調査』によると、破産債務者のうち、60代が16.3%、70代以上が9.3%。破産という最悪の結果を迎えてしまう人の4分の1は高齢者だというのもまた事実。破産債務者の「収入が年金だけ」という高齢者の割合は6.7%に上り、「老後破産」という悲しい結末を迎えてしまう人が少なくないことがわかります。

 

安定収入がある人、潤沢な貯蓄がある人であっても「老後破産」に陥るリスクはゼロではありません。以下、上の日本弁護士連合会による調査から、破産者が負債を負うことになった原因のなかでも高齢者とも関係の深い項目についてみていきます。

 

① 病気・医療費

負債の原因の23.3%を占めるのが「病気・医療費」。年齢を重ねるほど、健康が脅かされるリスクは高まることは、多くの人が認識しているところでしょう。1回あたりの負担は少額だとしても、回数を重ねればジワジワと家計を圧迫します。また、保険の効かない治療を受けることになれば、貯蓄を取り崩すほかありません。また、目立った疾病がなくとも、年齢を重ねて足腰が弱まれば介護が必要になり、大きな出費が発生する可能性もあります。

 

②住宅購入

「住宅購入」を原因とする負債も7.3%に上ります。日本の高齢者の持ち家率は9割を超えており、毎月の家賃が発生しない分、賃貸よりも安心ですが、住んでいる限り定期的なメンテナンスが必要になります。5~10年に1度は屋根・外壁の塗装のような数十万~数百万円の費用がかかる補修が必要ですし、バリアフリー化を図るための大がかりなリフォームを行うとなれば、コストが1,000万円を超えることも。

 

また、昨今の晩婚化の影響もあり、マイホームの一次取得者も高年齢化していますから、今後は、定年退職後も住宅ローンが残っているケースが増えていくと予想されます。12~13人に1人が、「住宅購入」をきっかけに破産に陥っていることを鑑れば、より慎重なローン返済計画、補修・リフォーム等を見越したマネープランを立てることが重要になるのはいうまでもありません。

 

③投資

1.5%と少数ながら、「投資(株式、会員権、不動産等)」をきっかけに破産に至る人もいるようです。

 

収入源が年金のみとなり、生活費の補填のために貯蓄を取り崩さざるを得ない日々を重ねると、「このままじゃマズい」と焦ることでしょう。そんなとき、なじみの銀行員から「現預金よりは有利ですよ」と、運用の案内を受ければ、よくリスクも理解しないまま、資金を投じてしまいたくなるかもしれません。銀行や証券会社などの金融機関であればまだ良いとして、詐欺などの犯罪行為に巻き込まれてしまっては救いようがありません。

 

リスクが理解できなければ投資はしないというのが、資産形成の鉄則。収入が安定し、余裕資金も確保しやすい現役時代のうちから、投資経験を積み、リテラシーを育んでおくことが重要になりそうです。

 

上にみたようなイレギュラーな出費・損失は誰にでも起こり得ます。「老後破産なんて、うちには無縁」とシャットアウトするのではなく、「老後資金2,000万円」という目標額が適正なのかどうか、プランニングし直してみる必要があるのかもしれません。