金融広報中央委員会の調査によると、老後資金の目標額として「2,000万円」を掲げる人が多いようです。19年頃に大きな話題になった「老後資金2,000万円不足問題」がきっかけになっているものと思われますが、「2,000万円」という目標設定は適切といえるのでしょうか。詳しくみていきましょう。
2,000万円貯めたから〈老後は安泰〉のはずが…“平均的な暮らし”の老夫婦を待ち受けていた、いくつもの「想定外」 (※写真はイメージです/PIXTA)

資産形成の「目標額」には見直しが必要か?

ただ残念なことに、近年では退職金は減少傾向にあります。

 

厚生労働省『就労条件総合調査』によれば、平均の退職金額は1997年の2,868万円から2017年では1,788万円まで減少。20年間の減少幅は1,000万円以上です。今後はさらに減少するとの予測もあり、退職金だけを頼りに老後生活を設計するのは避けたほうがよさそうです。

 

加えて「2,000万円問題」は無職夫婦の老後生活が“30年間”続くことを前提にしている点にも注意が必要です。たとえば想定よりも5年長く生きたとすると、17年当時と家計状況が同じだった場合、さらに300万円以上が不足する計算に。100歳を過ぎても元気な人は少なくありませんから、「想定外の長生きリスク」も考慮しておく必要があるのです。

 

そのほか年齢を重ねれば、自宅をバリアフリー化するためのリフォーム費用なども必要になります。国土交通省『令和4年度 住宅市場動向調査』のリフォームの項目をみると、リフォーム実施世帯の世帯主としてもっとも多いのは60代以上(53.7%)。子が独立し、高齢の夫婦2人の暮らしを見据えてリフォームを行う世帯が多いといえそうです。

 

リフォームの内容は、軽微な工事と数万円~数十万円の出費で完了する「手すりの設置」等のものから、「段差の解消」「浴室・トイレの高齢者向けの改築」など、数百万円の費用と大がかりな工事を伴うものまでさまざまです。全面的なリフォームを行う場合、1,000万円超のコストを覚悟しておかなければならないでしょう。

 

貯蓄を取り崩したくないがために自宅のバリアフリー化を行わず、転倒して骨を折って寝たきりに……そうなってしまっては本末転倒ですから、この出費も、老後の資金計画にしっかりと組み込んでおく必要がありそうです。

 

多くの人が老後資金の目安として掲げる「2,000万円」というのは、あくまでも「普通の生活」を送っているだけで発生する不足額。現役世代は、老後に待ち受ける上記のような出費も念頭に置き、改めて、資産形成の目標額を設定し直してみる必要があるのかもしれません。