70歳まで働いてローン完済…ようやく引退できると思いきや
前出の国土交通省調査の平均値に近い、1,400万円の頭金を入れ、5,000万円の新築マンションを購入するケースについて考えてみましょう。
仮に、当初5年間の金利が0.6%、以降1%だとすると、利息分は595万4,547円。月々の返済額は5年目までは9万5,050円で以降10万699円となります。一方、頭金ナシの全額ローンで購入した場合、金利は同上とすると、利息分は827万273円、返済額は5年目までは13万2,014円、以降は13万9,860円となります。
新築マンションの一次取得者の平均世帯年収は923万円ですから、世帯年収に占める返済割合は前者で12.3%、後者でも17.1%ほど。あくまで平均からみれば、かなり余裕のある返済プランだといえそうです。
ただ、マイホームの一次取得者の平均世帯年収を購入した住宅の種別にみてみると、「注文住宅」は784万円(三大都市圏)、「分譲戸建住宅」は722万円、「既存(中古)戸建住宅」は682万円、「既存(中古)集合住宅」は609万円であり、新築マンション購入世帯の年収が著しく高いことがわかります。これは、都心の超高級マンションを購入した「富裕層」が平均年収を引き上げているため。
他住宅と水準を合わせ、「年収700万円」の世帯で上記のローンを利用したと仮定すると、返済負担率は、頭金アリの場合で16.3%、頭金ナシの場合は23.9%となります。返済負担率については、20~25%に収めるのが理想とされていますから、両者とも、十分に返済を続けていけるプランだといえそうです。
ただ、新築マンションを初めて取得した世帯の世帯主の平均年齢は39.9歳という点は気になるところ。住宅ローンの返済期間は平均30年程度に及びますから、サラリーマン引退後、年金生活に突入しても返済を続けることになります。
総務省『家計調査』によれば、65歳以上の高齢者夫婦の消費支出は23万6,696円。平均的な給与を得ていた元会社員の夫と専業主婦の妻、という世帯が受け取る年金額は23万円程度ですから、年金を返済に充てることは難しそうです。
返済額は年間約168万円。上記の平均通り40歳で30年「フルローン」を利用していた場合、65~70歳の5年間で840万円ほど貯蓄を取り崩して返済を続けることになります。
または年金受給開始年齢を迎えた後も、働き続けるという選択肢もあるでしょう。
そうして70歳で住宅ローンを完済し、かつ老後に向けた潤沢な貯蓄があればその時点でようやく引退を迎えられそうです。しかしそうでない場合は、ローン完済と同時に引退という選択肢は取れません。
現役時代にローン返済と貯蓄を同時並行できないようなプランを組んだ場合、ローンが終わった後も「一生働き続けるしかない」という悲しい結末を迎えるリスクが高まるのです。銀行が「頭金は要りません」と、憧れのマンションを購入できるだけの貸付を提案してきたとしても、老後生活を見据えたプランニングを行った上で、慎重に判断する必要がありそうです。