海外に赴任した会社員が、駐在先の国に銀行口座や不動産を残したまま帰国するというケースは少なくありません。しかし、適切に対処せずに所有者が亡くなってしまうと、残された相続人が思わぬ憂き目に遇うことも……。本記事では、ニックFP事務所のCFP山田信彦氏が、15年前までアメリカに駐在していた桑原さん(仮名)の事例とともに、海外資産保有の落とし穴について解説します。
「高額な請求書が毎月届く…」駐在先に家と20万ドルの預金を遺し59歳夫が逝去。その後、妻へ襲い掛かかる〈超めんどくさい事態〉【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

毎月送られてくる高額な請求書に疲弊

「まずは死亡証明書(Death Certificate)を準備するところから始めましょう」

 

日本での死去を英語で公的に証明するだけでも、除籍謄本を外務省に送り日本の公文書であることを証明してもらうと同時に、専門の翻訳業者に依頼して英訳したものに公証人の認証まで必要とのことです。

 

今後の実際の手続きの多くは、日本で依頼した専門の事務所がアメリカの弁護士等と連携して取り進めてくれるとのことで、桑原夫人本人が奔走する必要性はさほどなさそうです。

 

しかし毎月送られてくる手続きに関して発生する高額な請求書を受け取るたびに、「こんなことになるなら、帰国する際に現地の財産はすべて処分しておいてくれればよかったのに」と、ため息をつきながら落ち着かない日々を過ごすことになりました。

海外資産保有の際には出口戦略まで見据えた対策を

以上、桑原さんのケースでは、海外不動産投資を意図的に行ったものではありませんでした。また、不動産を含む相続財産を遺した国も幸いなことに、アメリカという法整備も整い関連する専門家も多いところでした。

 

それでもこれだけの苦労がある一方で、最近の海外不動産広告には、ついひと昔前まで内戦に明け暮れていたような東南アジアの小国での投資物件すら見かけます。

 

日本語対応可能な販売仲介業者サポートがあるとしても、現地での登記、住宅保険付保、メインテナンス、物件所在国並びに日本での所得税申告、相続手続き等は、物件引渡し後は原則としてすべて所有者の自己責任となります。

 

包括的なカントリーリスク管理という意味で、投資家自身が対象国の民法や相続税法などの関連法規を学び、出口戦略をしっかりと設計する姿勢が海外不動産投資には求められるでしょう。

 

 

山田 信彦

ニックFP事務所

代表