少子高齢化が進むなか、昨今では高級志向の老人ホームやシニア向け分譲マンションといった選択肢が増え、老後の住まいが多様化しています。終の棲家に選ぶ人も多いなか、一方で入居後に後悔したというケースも……。本記事ではFP1級の川淵ゆかり氏が、Aさんの事例とともに、高級老人ホームとシニア向け分譲マンションの違いから、失敗しない老後の住まいの選び方について解説します。
資産5億円の69歳独居婦人〈高級シニアマンション〉へ優雅に人生最後の引っ越しも…3ヵ月後に「絶体絶命ピンチ」のワケ【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

69歳の母をそろそろ老人ホームに…

Aさんは69歳の女性です。昨年、元会社経営の7歳年上のご主人を亡くし、郊外の静かな高級住宅街の邸宅に1人で住むようになっていました。お子さんは43歳と39歳になる息子さんがいらっしゃいますが、それぞれ家庭を持っており、Aさんとは別居しています。

 

息子たちは、日中は家政婦を通わせているとはいえ、一人暮らしになってしまった母親を心配し、老人ホームに住まわせることを相談していました。父親が亡くなった際に、息子たちはそれぞれ同居することを母親に提案しましたが、神経質なAさんは嫁や孫たちに気を遣うのはイヤとのことで、1人で気楽に過ごすことを選んだのでした。

 

とはいえ、老人ホームに入るにはまだまだ健康なAさんですが、夜間に1人になるのはやはり不安で怖いですし、自分が夫の介護で苦労したため、息子や嫁たちに将来は同じ苦労をさせたくないと考えて、早めに老人ホームに入ることを決断します。

富裕層が選ぶ老人ホーム

会社経営をしていたAさんのご主人は、約5億円の資産や保険金を家族に遺していましたので、Aさんはお金に困ることはありません。Aさんのような富裕層で健康な方が選ぶ老人ホームは、民間の「高級老人ホーム」か「シニア向け分譲マンション」ということになります。この2つは似ているようで実は大きな違いがあります。

 

高級老人ホーム

高級老人ホームは、高級ホテルのような施設とおもてなしで、余生を楽しみたい高齢者が入居しますが、高級で、かつ、きめ細やかな要望に対応してくれる分、一般的の老人ホームよりも費用がかなり高くなります。

 

地域によって差もありますが、入居一時金も1,000万〜3,000万円と一般の老人ホームの約100倍であり、月額利用料は入居一時金の金額にもよりますが、毎月20〜50万円程度が必要になってきます。かなりの資金が必要になりますが、入居する部屋の所有権はなく、亡くなった時点で契約が終了してしまい、相続人の資産にはなりません。

 

シニア向け分譲マンション

シニア向け分譲マンションは高級老人ホームとは違い、物件を購入するため所有権を持つことができ、資産とすることができます。物件価格は数千万円~数億円であり、このほかに食費や管理費等の月額費用として10~30万円程度が毎月必要になります。しかし、購入するとはいえ、基本的に自立型のものが多く、自身で生活を送れる高齢者を入居の対象としており、誰でも入れるものでもありません。

 

なお、軽度の要介護状態の方でも入居できる物件はありますが、入居後に高度の要介護になったり、認知症を発症したりした場合は、別の老人ホームへの住み替えが求められるケースが多いのです。つまり、購入して所有権があるにもかかわらず、亡くなるまで住み続けることは難しく、住み続けることができなくなった場合は売却することも考えないといけません。

 

さらに老人ホームであれば、常に介護職員が見守ってくれるのですが、シニア向け分譲マンションの場合は、こういった見守りなどがないか、あっても追加サービスとなり別料金が加算されたりするため、住民間のトラブルが発生するケースもあります。

 

高級老人ホームもシニア向け分譲マンションも、健康なうちはいいのですが、介護が必要になった場合、どうなるか、どうするか、を考えて入居を決めないといけません。介護状態になった場合には月額料金に介護費用が加算され、さらに毎月の負担が大きくなってしまいます。

 

さらにこれからは人手不足が加速することで、いままで受けられたサービスが終了したり(最近話題の給食や学食の問題と同じですね)、値段が上がってしまったりすることも予想されます。自分自身の変化もそうですが、周りの環境などの変化も予想する必要があります。