“モンスター入居者”が貸主にもたらす不利益
賃貸物件、とくに集合住宅(アパート、マンション)では多くの借主・入居者が生活をしています。そのため、一部の借主・入居者による迷惑行為は、ほかの借主・入居者の平穏な生活を害し、トラブルの元となります。
稀に、迷惑行為の苦情が正当なものであっても、賃料をきちんと支払っている以上は、大切な入居者であることに変わりなく、争いたくないと考える貸主もいますが、一部の借主・入居者による迷惑行為によってトラブルが発生した場合、貸主は、次のような不利益を被るおそれがあります。
(1) 迷惑行為をしている借主・入居者への対応コストが生じる
まず、貸主は、迷惑行為があるかどうかの確認を行う必要があります。
迷惑行為と判断するには、詳細な調査が必要な場合もあり、時間や金銭のコストが発生することがあります。また、実際に迷惑行為があると確認できた場合には、迷惑行為をしている借主・入居者に当該行為についての注意等を行う必要があります。ここでも時間や金銭の面でのコストがかかると想定されます。場合によっては、法的手続までとらなければならない可能性もあります(下記2参照)。
(2) ほかの借主から損害賠償請求を受ける可能性がある
貸主は、賃貸している物件(不動産)を通常どおり使用・収益させる義務を負っています(民法第601条)。
そのため、一部の借主・入居者の迷惑行為によって、ほかの借主・入居者の平穏な生活が害され損害が発生した場合、貸主がそのような迷惑行為をする借主に物件を賃貸することで上記義務の違反を発生させているとして、損害賠償請求を受けてしまう可能性があります。
実際に、迷惑行為をする借主がいるにもかかわらず、そのことを説明せずに新たな賃貸借契約を締結した事例で、その新たな賃貸借契約を締結した借主に対し、貸主が損害賠償義務を負うとした裁判例もあります(大阪地方裁判所平成元年4月13日判決(昭和62年(ワ)第2211号))。
(3) ほかの借主の退去・賃料減額請求等により賃料収入が減少する
上記(2)のような損害賠償請求をしてくることまではなくとも、迷惑行為を嫌って退去する借主や迷惑行為を理由に通常どおり使用・収益させる義務が履行されていないとして賃料減額を求めてくる借主も現れるでしょう。そうなれば、賃料収入が減少することにもなります。
(4) 客付け(新しい借主の獲得)が困難となり賃料収入が減少する
また、上記の裁判例を踏まえると、迷惑行為を行う借主・入居者がいる場合には、新たな賃貸借契約締結時にそれを説明する必要があるということになります(厳密には事実関係にもよるところですが、健全な賃貸経営を目指すのであれば当然、説明をするという判断になるでしょう)。
そのような説明を受けた人が入居を希望する可能性は低く、この点からも賃料収入が減少する可能性があるといえます。
以上のような不利益を被ることを回避・低減するため、物件の貸主としては、迷惑行為をされた場合の対応を予め考えておくとともに、事前に迷惑行為をされないための対策を講じておくことが大切です。