年を重ねれば介護リスクは高まり、人の手を借りなければならないシーンも出てくるでしょう。「家族に負担をかけるのは申し訳ない……」と考えたとき、「老人ホームへの入居」も選択肢のひとつになるでしょう。綿密にシミュレーションして予算内で賄える施設を探し、無事、老人ホームへの入居が決定! これでひと安心……とはいかないケースもあるようです。みていきましょう。
すまん、金を貸してくれ!年金17万円・80代の高齢男性が悶絶する「老人ホーム請求額」 (※写真はイメージです/PIXTA)

老人ホームの請求額に覚えた「違和感」の正体

特養は人気が高く、もはや入居できるかどうかは運、と言われるほどです。人気の理由はやはり安価な費用。家賃の前払いにあたる「入居一時金」は基本的にゼロ。月額利用料は4万~6万円程度で、そのほか理容代や生活雑費が月1万~2万円程度かかるだけ。

 

一方、民間の有料老人ホームの費用はピンキリ。入居一時金は0~数億円と幅はありますが、30万~40万円程度という施設が多いよう。また月額費用は15万~20万円程度が相場で、サービスによって大きく変わります。また、何が実費となるのかは施設によってまちまちなので、入居前に確認しておくことが肝心です。

 

気がかりは、その費用を誰が負担するのか。基本的に入居者本人が年金と貯蓄で賄うケースが多数派です。厚生労働省の調査によると厚生年金受給者の平均年金額は65歳以上男性で月17万円、女性で10万円。これで月額利用料が賄うことができれば御の字。足りない場合は、貯蓄を取り崩して対応することになります。施設への入居期間は平均5~6年程度。そこから逆算して、綿密なシミュレーションのもと、無理のない範囲で施設を選んでいくことになります。

 

80代・平均的な年金額の男性がいたとしましょう。年金の手取りは月14.5万~15万円程度になります。貯蓄は心許なく、「できれば年金だけで月額利用料を賄いたい!」と考えて老人ホームを決定。これでひと安心……かといえば、そういうわけにはいきません。

 

ーーあれっ、なんでこんなに高いんだろ⁉

 

ある日、老人ホームからの請求額をみて覚えた違和感。前の月よりも引き落とし額が多いような……。

 

株式会社TRデータテクノロジーが410社、6,254ヵ所の老人ホームを対象に行った調査によると、昨今のインフレを受けて、4分の1にあたる96法人2,496施設で値上げを実施。管理費は平均5,550円と値上げ率14.0%、食費は4,460円と値上げ率9.3%と、全体を通して10%前後の値上げとなりました。サービスである以上、値上げは仕方がありませんが、その分、貯蓄が増えるわけではありませんし、年金も値上げ分以上に増えることはないでしょう。シミュレーションは崩れ、入居者自身では賄えない場合も。

 

80代・平均的な年金額の男性。なんとかやっていけると考えて入居を決めたのに、10%の値上げで利用料は月16.5万円に。値上げ額は1年で18万円、5年で90万円……年金頼みの高齢者にとっては、思わず悶絶してしまうような大きな負担です。

 

ーー息子よ、すまん、金を貸してくれ

 

今回の大幅なインフレといったような正当な理由があれば、今後も老人ホームの利用料金の値上げは起こりうるでしょう。それによって費用が払えなくなったら、家族を頼るというのもひとつの手です。しかし「家族に迷惑をかけたくない」と考えて老人ホームへの入居を決めたのに……大きな葛藤です。

 

老人ホームの費用が払えなくなったら、新たに予算内の施設へ転居するのもひとつの手。入居している施設の入居期間によっては一時金が返金されることもあり、結果的に費用を抑えることになるケースも。ただし住まいが変わることは、自身にとっても大きな肉体的にも精神的にも大きな負担になることは知っておいたほうがいいでしょう。