「高給取り」の元・エリートこそ注意が必要な老後破産
以下では、現役時代に給与水準が高かったエリートサラリーマンの50代以降の家計について、みていきます。
シミュレーションするのは、従業員数1,000人以上の大企業の部長。大企業・部長の平均年齢は52.7歳で、月給は73万7,100円。賞与等も含めた年収は1,200万円超と、多くの人が「高給取り」とみなす年収1,000万円をはるかに上回る“勝ち組”です。
総務省の『家計調査』によれば、世帯年収1,200万円台の世帯の消費支出が月間42万円ほど。ただ、この水準の世帯の平均貯蓄額は約2,300万円とされており、一方で住宅ローンなどの負債は1,100万円程度ですから、定年時に退職金を受け取れるとすれば、老後の心配はあまりなさそうです。
この部長が仮に退職金として2,000万円を受け取ったとすると、60歳時点での貯蓄は4,000万円。ここで住宅ローンの残債1,000万円を完済したとすると、貯蓄は残り3,000万円となります。60歳以降、嘱託社員として仕事を続けていたとしても、年収は定年退職時の3割減。55歳の役職定年で3割減となった給料のさらに3割減ですから、60代の給与はピーク時の50代の約半分です。
その後、65歳で受給開始となる年金は、現役時代の給与水準が高かった人であっても約14万円、国民年金と合わせても20万円程度。妻が専業主婦だった場合は世帯で月に26万円、収入は年間で300万円程度ということになります。つまり、年金生活に入れば収入はピーク時の25%にまで減少します。
こうした状況下でも現役時代と同等の生活を続けていたとすると、60~65歳の5年間で毎年80万円ほどの貯蓄を取り崩すことになります。すると、年金生活に入る65歳のときには貯蓄はすでに2,600万円ほどに。さらに、年金生活に入っても金銭感覚が変わらなかったとすると、年間の赤字額は200万円超。元・部長にとっては「普通の暮らし」をしていただけなのに、単純計算では13年後には貯蓄が底をつき、70代後半で家計が破綻することになります。
収入の減少や加齢により、多くの人は消費・生活スタイルを見直すでしょうから、すべての元・エリートサラリーマンが上記のようなルートで破産に至る訳ではありません。ただ、「一度高めた生活水準を下げるのは難しい」というのは厳然たる事実。現役時代に派手な生活を送ってきた人ほど、注意が必要なのは間違いありません。
老後破産という最悪の結末を避けるには、収入の多い現役時代のうちから、「夫婦2人で暮らすには広すぎるマイホームから引っ越す」「週末しか乗らない自動車を売却する」など、固定費を削るための行動が求められます。また、「老後はまだまだ先」という30~40代は、給与が増えるたびに生活水準を高めることのリスクを認識しておくことが、豊かな老後を迎えるためには必須といえそうです。