(※写真はイメージです/PIXTA)

クリニックの開業準備にあたっては、開業コンサルタントを選任し、当該コンサルタントにある程度の事務手続を任せる場合も多いでしょう。しかし一方で、コンサルタントの選定を誤り、トラブルになることも少なくありません。どのような点に留意すべきでしょうか。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

コンサルタントの選定には、特徴と技量の見極めが必要

そもそもクリニックの開業コンサルタント業務は、限られた一部の業務を除き、特別な免許や登録は必要ないとされています。そのため、様々なクリニックの開業コンサルタントが存在し、その特徴、業務の範囲、能力にはそれぞれかなりの差異があります。

 

 

例えば、MR出身で医師、看護師、医療機器関係者など全般に人脈があることに強みを有している者、医療用医薬品の卸売販売業で開業支援を行う部署、医療機器の卸売販売業で開業支援を行う部署、リース会社で開業支援を行う部署、クリニックの内装工事等を専門としながら開業支援を行う者、税理士、行政書士、社会保険労務士の業務に付随して開業支援を行う者などがいます。

 

宅建業者のような国家資格を必要とする場合は、一定の要件を満たす者でなければ免許を取得することができず、また、免許を取得したあとも法令に違反するような行為をした場合には行政の監督処分の対象になることなどから、一定の品質が保たれているとされていますが、クリニックの開業コンサルタントの場合、免許や登録などが必要とされていない以上、選定にあたっては、ドクターが自らの目で十分な吟味をしていく必要があるといえます。

 

よくあるのが、開業コンサルタントとしての知識や経験が不足している、依頼対象業務の認識がお互いに合致しておらず、円滑に開業準備が進まないといったトラブル事例です。

 

このようなトラブルを回避するためには、コンサルタントが、これまでどのような経験を有しているのか、どのような部分に強みを持っているのか、どこまでの業務を担当するのか等について、書面できちんと説明を受け、確認しておくことです。

コンサルタントの報酬には基準なし...費用の詳細な見積を取っておく

また、コンサルタントの報酬に基準はないため、報酬の定めは各コンサルタントの裁量に委ねられています。報酬の定めは、各コンサルタントの収益構造によるものと思われますが、例えば、卸売販売業者の開業支援部署であれば、本業における長い付き合いを前提に一定のディスカウントをしてくれるような事例もありますし、開業を専門にしているコンサルタント、士業については、卸売販売業者のような本業が別にあるわけではありませんが、長い付き合いを前提にディスカウントを行う事例などもあります。また、当該コンサルタントだけで業務が完結する場合もあれば、別の専門家などと連携することになった場合に当該専門家の費用が発生する場合などもあります。

 

そのため、事前説明が不十分であり、想定外の費用を負担することになり、あとからトラブルになったという事例もあります(なお、宅建業者であれば、報酬の額が決まっているため、想定外の報酬を請求されるというトラブルは多くありません)。

 

したがって、コンサルタントを選定するにあたっては、事前に見積書を作成し、十分な説明を求めるべきだといえます。

 

そして、交付された見積書を十分に吟味し、

 

①どこまでの作業が業務の対象であるのか、クリニックの開業にあたって必要な作業が網羅されているか

 

②各業務について、いくらの報酬が発生するのかが明確に記載されているか

 

以上を確認するべきです。

 

見積書が大まかなものである場合には、より詳細なものを提出するように求めるなどしてもよいと思います。

 

業務委託契約書の締結も忘れずに

そして、見積書に納得した場合には、事後のトラブルを避けるために、当該コンサルタントとの間で、業務委託契約書を必ず締結するようにすべきです。契約書がないために、トラブルが発生した場合の取決めが不明確であったため、思うような権利主張ができなかったという事例もあります。

 

さらに「開業までに必要な作業について十分な説明がなく、どこまで手続が進んでいるのかわからない」「コンサルタントの対応が遅く、開業スケジュールが大幅に後ろ倒しになってしまった」というトラブルもあります。

 

そのため、コンサルタントに、開業までに必要な事項とその作業日程を記載した工程表を作成してもらい、それを共有しながら進めることを求めるなどしてもよいでしょう。

 

金融機関に融資を受ける際にも注意が必要

また、クリニックの開業の際、金融機関から融資を受けるにあたり、融資を受けやすくするためにコンサルタントへ依頼することがあります。

 

しかし、融資コンサルタントが、融資を受けたい事業者のために、銀行融資等の契約締結の勧誘や契約締結に向けた条件交渉等を行うことは、金銭の貸付けの媒介に該当します。したがって、貸金業登録や金融サービス仲介業の登録を受けている必要があります。

 

そのため、依頼するコンサルタントが融資の条件交渉等を業務内容としている場合には、このような登録があるかどうかも確認しておく必要があるでしょう。なお、融資コンサルタントのなかには、無登録で金融機関との条件交渉等を行う業者も存在し、事後にトラブルとなる事例もあるため注意が必要です。

 

最後に、開業にあたっては、税務面や労務面で必要な手続がありますので、これらの手続を忘れてしまうことがないように、税理士や社会保険労務士のアドバイスを受けて確認しておくべきです。

 

 

 

山口 明

日本橋中央法律事務所  弁護士