高齢者の就業率が増加する日本
総務省統計局では、「敬老の日」の前の令和5年9月17日に、次のように「統計からみた我が国の高齢者」を公表しています。
(※文章・グラフは、総務省報道資料統計トピックスNo.138「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」より引用)
一方、総人口に占める割合は29.1%と、前年(29.0%)に比べ0.1ポイント上昇し、過去最高となりました。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、この割合は今後も上昇を続け、第2次ベビーブーム期(1971年~1974年)に生まれた世代が65歳以上となる2040年には34.8%、2045年には36.3%になると見込まれています。
主要国における高齢者人口の割合の比較(2023年) 当然、高齢者の割合が増えていくと、年金などにも影響が出てきますので、働く高齢者も増えてきます。
元・大企業の部長が定年後も働く理由
人口減少や高齢者人口の増加はもちろん、ここのところの物価高で働く高齢者は増えています。若いころと比べて大きな時代の変化に悩んでいる人も多く、次にご紹介するAさんもその1人です。
Aさんは、九州地方在住の71歳の男性です。大手食品メーカーの大企業で総務部長を60歳で定年退職し、その後再雇用で備品や消耗品の管理業務を行い、65歳で年金生活に入りました。本来であれば大企業の部長職まで勤めた人ですから2,000万円以上の退職金を手にして悠々自適の老後を送るはずだったのですが、Aさんの場合はちょっと違いました。
人類学の教授を父に持ち、比較的裕福な家庭に育った次男坊のAさんは、大学を卒業したあとはすぐには就職しませんでした。アルバイトをしてお金が貯まったら海外や日本の各地をリュックひとつで周って歩くような生活を続けていたのです。
Aさんが30歳になる年に、さすがに結婚もせずフラフラしている生活を心配した家族が、大企業に役員として勤めるAさんの叔父さんに頼み込んで中途採用してもらった次第です。
その後は堅苦しさを感じながらも、有休を取りながら旅行を楽しんだり、見合いで結婚をしたりと人並みの生活を続け、叔父さんの引き合いもあって総務部長まで上り詰めた、といった他人から見ると羨ましい人生を送ってきました。
ですが、30歳になってから入社したことも響き、同年代の人達と比べ退職金の額も少なく、公的年金加入も入社してからだったので、年金額も多くはありません*。
* 1989年の改正から、20歳以上の学生についても加入していないあいだに障害の状態になると無年金になるなどの理由から、国民年金に強制加入となりました。
しかも、50歳になったころに妻が病気によって体を壊してしまい、治療費やバリアフリーによるリフォームにお金がかかったことで貯蓄額が大きく減ってしまいました。さらには定年を迎えた60歳ころに妻が先立ち、現在は自分1人分の年金で生活を賄っています。
なんとか65歳までは再雇用で会社に残ることができましたが、その後は細々と1人での年金生活を送っていました。ですが、これからの家計や生活に不安を感じたため、67歳からアルバイトを始めることにします。若いころからリュックひとつで旅をして歩いた体力があるAさんは、物流センターで仕分けや梱包をする時給950円のアルバイトを選びました。
Aさんは真面目に不慣れな仕事に取り組んでいましたが、若い人に比べるとどうしても動作も物覚えも遅く、店長やアルバイト学生から度々嫌味をいわれてしまいます。
「おせーよ、ジジイ」
あるとき、そんな怒号が。大企業の総務部長まで勤めたAさんですから、プライドが高いところもありました。それにしても、年下の店長や孫くらいの年齢のアルバイト学生から放たれたこの言葉にはキツいものがあったそうです。仕事仲間とのコミュニケーションもうまくいかないため、長続きせずにコンビニの夜勤など仕事をいくつか渡り歩きました。いまは夜勤のガードマンでなんとか落ち着いている状況です。
「30歳で会社に入ってからも仕事に熱意を感じることはありませんでしたし、昇進してからは部下に仕事を任せてしまっているばかりで特技やスキルもありません。英語だけはできましたからそちらを伸ばして教室でも開けるようにしておけばよかったかな、と後悔しています。もう遅いですがね」とAさんはいいます。
(※プライバシーを考え、脚色して記載しています)