いま住んでいる住宅に不満を抱いたことがある人もいるのではないでしょうか。日本と中国、どちらの国でも「遮音性」が低いことへの不満が多いようです。本稿では、ニッセイ基礎研究所の胡笳氏が、日中住宅の「遮音性」が低い原因と簡易的な「防音対策」の方法について解説します。
遮音性に対する高い不満度、日中住宅の共通問題 (写真はイメージです/PIXTA)

住宅の遮音性が低い理由、日中とも住宅の壁が薄い

日本の場合、建物の遮音性能はその構造によって大きく異なり、一般的には重量のある資材を用いた建物ほど遮音性能が良い傾向にあると認識されている。具体的には、鉄筋コンクリート造(RC造)の住宅は遮音性能が高く、一方で木造住宅は遮音性能が低い傾向がある。

 

賃貸住宅の遮音性に対する不満度が高い理由は、木造の借家が多いのではないかと考えがちだが、国土交通省の「平成30年住宅・土地統計調査」のデータによれば、実は民間借家の8割以上が非木造のものである7

 

それでもRC造住宅の遮音性が低い理由について、一級建築士に話を聞いてみたところ、建築費を抑えた物件、特に古い建物では、外壁と床だけをRC造にして、住戸間の隣接する壁はRC造でないことがあり、このような物件は「建築基準法」が求める最低限の基準に従った仕様で造られていることが多いという。

 

中国の住宅は基本RC造の共同住宅8だが、その仕様が国家基準の最低ラインを満たしていない建物が多い。北京建築大学建築と都市計画学院の教授が、2021年に北京市内の複数の竣工前の住宅小区を対象に、床衝撃音の測定を行ったところ、測定値の多くが約78デシベル程度であり、国家基準の最低ライン75デシベル9を満たしていないことが判明した10

 

その背景には、ここ数十年の急速な都市化の過程で、他地域から大都市への人口流入が増加し、驚く速さで建物が立ち並ぶようになったが、不動産開発業者は、単に住居の数を増やすことに焦点を当て、人々の生活のニーズを考慮しなくなったことが一因と考えられる。

 

また、中国の新築住宅は一般的に内装がない状態で引き渡され、壁紙や床材はなく、給排水管も露出しており、このような住宅は「毛坯房(マウピーファン)」と呼ばれる。その場合、内装の質や防音材の利用については住民ぞれぞれの判断によって行われるため、遮音性能も住戸によって異なる。

 

さらに、中国では個人間売買による既存住宅の取引が盛んに行われているため、住棟内の内装工事が常に行われている。このようなリフォーム工事の騒音は道路交通騒音よりも住民の心理的健康状況に悪影響を与えていることが学術論文によって実証されている11

 


7 国土交通省(2019)「平成30年住宅・土地統計調査」https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2018/tyousake.html

8 中国は日本のような1棟の賃貸マンションが少なく、賃貸物件は基本分譲マンションの1室を賃貸として出されている。

9 測定当時の「民用建筑隔声设计规范(民間土木建築物の遮音設計に関する規範)」の基準によると、住宅の建物の隔音性能は、衝撃音による騒音の隔離能力を示す単一の評価指標の最低基準の評価値が75デシベルを超えないことであるが、その後最低基準は70デシベルに改正されている。https://www.usx.edu.cn/info/1401/16791.htm#_Toc4421892

10 前出「生命時報」記事。

11 李春江, 马静, 柴彦威, 等. 2019. 居住区环境与噪音污染对居民心理健康的影响: 以北京为例 [J]. 地理科学进展, 38(7): 1103-1110.

[Li C J, Ma J, Chai Y W, et al. 2019. Influence of neighborhood environment and noise pollution on residents' mental health in Beijing. Progress in Geography, 38(7): 1103-1110.] DOI: 10.18306/dlkxjz.2019.07.014

http://www.progressingeography.com/CN/article/downloadArticleFile.do?attachType=PDF&id=42882