決して珍しくない「老後は年金が頼り」の世帯
老後、年金だけでは生活資金が2,000万円不足するとしてセンセーショナルな話題を巻き起こした「老後資金2,000万円問題」。
これを一気に解決できる可能性を秘めた退職金ですが、最近は住宅ローンの返済に充てる人が増えているといいます。一般社団法人 投資信託協会が行った『60歳代以上の投資信託等に関するアンケート調査(2021年(令和3年))』によると、退職金の使い道として4番目に「住宅ローンの返済」がランクインしています。
と、退職金で住宅ローンを完済してしまうケースが多いのです。以前であれば住宅購入時の年齢はもっと若く、たとえば先にみた第一子出生時の母の年齢と同じく、最新の統計より5年早く住宅を購入していたとしたら、ローンの条件を同じとすると60歳定年時のローン残債は620万円ほど。
退職金で住宅ローンを完済してしまっても、手元にそれなりの金額が残る計算です。
しかし40歳で30年ローンを組むとなると、定年退職時の残債は大きく、退職金で住宅ローンを完済してしまえば、手元に残る金額はわずか。現役時代は、ローン返済や子どもの教育費負担に追われ貯蓄も潤沢でないというケースは多く、「老後は年金が頼り」という世帯は決して珍しくありません。
厚生労働省の調査によると、元会社員の男性が65歳から手にする平均年金額は17万円ほど。配偶者が専業主婦なら、満額で月6万4,816円(2022年度)ですから、夫婦で月23万円程度の年金を手にすることになります。総務省『家計調査』によれば、無職の高齢夫婦(65歳以上)の1ヵ月の消費支出は21万~23万円程度で、税金や保険料などをプラスすると25~26万円程度。平均値では片働きの夫婦は老後に毎月2万~3万円の赤字が発生する計算です。
ただ、政府が目標として掲げている年2%のインフレが続いたとすると、単純計算では5年後の必要生活費は25.4万円、10年後には28.0万円になります。年金受給が始まったときに2~3万円程度だった毎月の赤字が、70歳の時点では月5~6万円に拡大することになります。
そもそも、片働き世帯で月23万円もの年金を受け取れるのは、現役時代の給与水準が高かった一部の世帯に限られます。急速に少子高齢化が進み、平均賃金も横ばいを続ける現状をみれば、年金の増額には期待はできないでしょう。多くの世帯には貯蓄をはじめとする自助努力が求められるというのが現実です。
住宅ローンは安定収入のある現役時代のうちに繰り上げ返済を活用しながら完済してしまい、大事な退職金には手を付けずに老後生活を迎えられるよう、計画的なマネープランを組んでおく必要がありそうです。