厚生労働省の『簡易生命表』によると、22年の日本人の平均寿命は、男性81.05歳、女性87.09歳。60歳で現役を退いたとすると、「老後生活」は25年前後に及びます。年金だけでは足りない生活費は貯蓄を取り崩して捻出していくことになりますが、そこで重要になるのが、「資産寿命を延ばす」という考え方。詳しくみていきます。
年金月28万円の65歳・元共働き夫婦「できれば毎年旅行がしたい」…“ゆとりある老後”のための貯蓄は〈2,000万円〉で足りるのか? (※写真はイメージです/PIXTA)

「ゆとりある老後」に必要なお金は夫婦で「月38万円」

会社員を引退すると、多くの人は収入が年金のみに限られることになります。足りない分はそれまでの貯蓄を取り崩して対応することになる訳ですが、仮に60歳で現役を退いたとすると、男性は平均23~24年、女性は平均28~29年の「老後生活」が続くため、「そんなにお金がもつかな」と不安を抱く人は多いかもしれません。

 

それでは、一体どれほどの貯蓄があれば「ゆとりある老後」を送ることができるのでしょうか。

 

厚生労働省『令和3年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、自営業など国民年金の平均受取額は月額5万6,479円、厚生年金(第1号)の受取額は月額14万5,665円でした。厚生年金についてさらに男女別にみてみると、男性は16万9,006円、女性は10万9,261円。65歳以降の月あたりの収入は、会社員世帯の場合、夫婦共働きであれば約28万円、夫・会社員、妻・専業主婦という世帯であれば約23万円ということになります。

 

公益財団法人生命保険文化センター『令和元年度生活保障に関する調査』によると、「夫婦2人の最低限の老後資金」は平均月23万2,000円。「夫婦2人ゆとりある老後生活のための必要額」は平均37万9,000円。旅行やレジャー、趣味や教養等への出費を鑑みると、年金だけでは足りず、どうしても貯蓄を取り崩す必要に迫られることになります。

 

「ゆとりある老後」を過ごそうとすると、共働き夫婦であっても月あたりの貯蓄の取り崩し額は10万円程度。1年間で120万円と考えると、25年で3,000万円は必要という計算になります。頻繁に旅行に出かけるような贅沢をしなくても、年齢を重ねれば病気のリスクが高まり、それに伴って医療費もかさみます。

 

それに、平均寿命はあくまでも「平均」。老後生活が何年続くのかを事前に把握することはできませんし、65歳で必要な生活費と、90歳で必要な生活費は当然異なりますから、必要な貯蓄額を正確に割り出すことはできないでしょう。

 

そこで、現役時代からの備えとして「資産寿命を延ばす」ための対策を練っていくことが重要です。

 

1つには、上でも触れた医療費の負担を減らすために、健康の維持に努めること。年齢を重ねても心身が健康であれば65歳を過ぎても仕事を続けて収入を得られますし、仕事を通じて社会参加している実感を得たり、新たな人との出会ったりすることが生きがいにつながり、ひいてはそれが、健康でハリのある生活を維持していくことにつながります。

 

もう1つが、貯蓄は「運用しながら取り崩す」という考えを持つこと。たとえば、貯蓄2,000万円がすべて現預金だった場合、毎年120万円取り崩すと残高は16~17年で底をついてしまいます。

 

一方で、仮に2,000万円を年利3%で運用した場合、1年後には元本が2,060万円となります。そこから120万円を支出したとすると、翌年の元本は1,940万円。その年は1,940万円を3%で運用し、120万円を支出して、残高は1,878万2,000円。このサイクルを繰り返せば、貯蓄の減少スピードを大きく抑えられ、現預金を取り崩していった場合に比べて資産の寿命が7年ほど延びることになります(図1)。

図1.2,000万円の貯蓄を毎年120万円ずつ取り崩していくシミュレーション

 

ただ、投資の世界に「絶対」はありません。運用で成果を挙げるためには、高い金融リテラシーや、ときには投資家としての“勘”も求められます。60歳を過ぎてから投資デビューしても、すべてが上手くはいくとは考えにくいですから、安定収入のある現役時代のうちから、さまざまな運用手法に慣れ親しみ、投資家としての腕を磨いておくことが重要です。