2022年9月に、保育施設に通う園児がバスに長時間置き去りにされ、熱中症で死亡する事件が起きました。通園する保育施設の管理体制のあり方によってはこのような事件が発生する可能性があるということです。親の立場として、未然に防ぐために何ができるでしょうか。自身も1児の母であり、出産・子育てに関わる法律問題に詳しい弁護士・高橋麻理氏の著書『子育て六法』(日東書院本社)より一部抜粋してご紹介します。
子どもの「園児バス置き去り」を未然に防ぐには?親がわが子を守るためにとれる「自衛手段」【弁護士が解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「園児バス」の事故で子どもがけがを負った場合の法的措置

園児バスについては、子どもを送迎中に交通事故に遭い、子どもがけがを負うことが起こり得ます。もし、そのようなことになった場合、治療費を請求するにはどうすればよいのでしょうか。また、運転手の解雇を求めることはできるでしょうか。

 

治療費は誰にどうやって請求するか

まず、治療費の請求です。子どもがけがを負った場合、民法709条に基づきその治療費を請求できます。仮に入院しなければならなくなったら入院費、事故やけがによる精神的苦痛に関する慰謝料、保護者が通院に付き添うために仕事を休まざるを得なかったとしたら、その休業に関する損害分なども請求を検討したいところです。

 

請求先は、事故の原因によります。バスの運転手に100%の過失があるなら請求先はバスの運転手です。バスと衝突した相手方の車両の運転手に100%の過失があるなら請求先は相手車両の運転手です。いずれにもそれぞれ過失があるなら両方に対して請求することができます。

 

また、バスの運転手を雇っている保育施設、その他会社に対し、使用者として損害賠償請求をすることも考えられます(民法715条)。

 

請求先が複数になり得る場合、それぞれに対し、全額を請求することができます(民法719条)。ただし、トータルで請求できる額はあくまでも実際の損害額です。たとえば損害額が100万円だとしたら、トータルで請求できる金額は100万円です。したがって、通常は、いずれか資力がたしかな方に全額請求することが多いようです。

 

なお、実際には、バスの車両は自動車保険に加入していることが多いので、運転手本人ではなく、損害保険会社の担当者とやりとりをすることが多いでしょう。

 

保育施設に対し、バス運転手の解雇を請求できるか

バス運転手を解雇させられるかという点については、被害者側が法的に解雇を強制できるわけではありません。なぜなら、雇用契約はあくまでもバス運転手と保育施設等との間で締結されたものだからです。バス運転手を雇う立場の保育施設等が、その運転手に解雇事由となるような行為が認められたかを検討し、対応することになると考えられます。

 

保護者の立場からすると、事故の原因によっては、今後も同じ運転手が送迎をすることに不安を抱くこともあると思います。もし、それ以前からも運転に不安な要素があったなどの事情があれば、そのような点も合わせ、できれば他の保護者にも協力を求めて、不安な気持ちを保育施設側に伝え、対応を検討してもらうのがよいでしょう。

 

 

高橋 麻理

弁護士法人Authense法律事務所

弁護士