そのシナリオは株価に織り込まれてないか
投資を検討している会社について、「成長シナリオ」を描けたからといって、すぐに飛びついてはいけません。というのも、マーケットの参加者の多くがそのシナリオを描いているのであれば、株価はすでに高値水準にあるはずだからです。
その株価で買って、本当に利益が出るでしょうか。ほかの割安な株を買ったほうが利益が出るかもしれませんし、下手に飛び込めば、損失を被る可能性もあります。
成長著しく株価が上り調子の会社に投資したけれども、思ったほど伸びない、それどころか買ったのが“最高値圏”の水準であり、以後右肩下がりの推移を続けているというケースは珍しくありません。
まずは、現在の株価にはそのシナリオが織り込まれているのかどうかを確認し、その上で株価にまだ上昇余地があると判断できるときにのみ買う、という慎重さが必要です。ベストなのは、その成長シナリオが誰にも気づかれておらず、しがたって株価にも織り込まれていない会社をみつけることです。
しかし当然ながら、そんな会社を見つけることは簡単ではないことも理解しておくべきでしょう。
そのシナリオは単なる妄想ではないか
続いて、自分の描くシナリオを過信してしまうことにも注意が必要です。端的にいえば、そのシナリオが単なる妄想でないか、という点を注視する必要があるということです。
未上場のスタートアップやベンチャー投資の世界では、投資はほとんど失敗に終わります。しかし、100社に1社とか、あるいは1,000社に1社くらいの割合で現れる「大当たり」の銘柄によって、投資家側は莫大な利益を生み出しているのです。上場企業は一定基準を満たして上場していますから、スタートアップやベンチャー企業ほど、失敗の確率は高くないでしょう。
しかし、上場・未上場のいずれにおいても、急成長する会社を見抜くのはそう簡単ではありません。
たとえば投資家が、「今後の人口減少社会では空き家が増えるため、安く買い取った空き家をリノベーションして安く販売をしているA社は今後急成長するだろう」というシナリオを描いたとします。もちろん、そのシナリオが的中し、A社株で大儲けできる可能性もあります。
しかし、「そもそも家を買わずに賃貸で過ごす人が増え、家を買う人はやはり新築を好むようになる」というシナリオを描く人もいるでしょうし、「建設業界の人手不足でリノベーションに時間がかかり、商品の回転が悪く利益が少ない」と考える人もいるかもしれません。さらに、「ビジネスそのものは良いのだが、A社のマネジメントや組織に問題があり、トラブルが多く十分な利益が出ない」という結果に終わる可能性もあります。
このように、現実世界で投資先企業の業績や株価がどう推移するのかを正確に読み通すことは不可能です。
「大当たり」のシナリオを描くことは結構なことですが、それが単なる妄想でないか、慎重に点検する必要がありそうです。
「成長シナリオ」でなく「安定シナリオ」にも注目
多くの投資家が「ある会社が成長して株価が上昇するシナリオ」を描くなか、視点を変えて「ある会社が長期的に一定以上の利益を出し続けるシナリオ」を描くことは有益といえるかもしれません。
今後急成長はしなくても、毎年必ず利益を出す。そして減配はせずに自社株買いを行い、株主に還元していく。毎年ではないが定期的に増配もある。そんな会社の株を持ち続けていれば、運用資産は着実に増えていくことでしょう。
また、株価が不変というわけにはいきませんが、それを逆手にとり、高値水準で売って保有株数を減らし、安値水準で買い増せば、利益を最大化することもできます。
単なる妄想に終わるかもしれない「成長シナリオ」に賭けるよりも、「安定シナリオ」に基づいて投資をするほうが、実は大きな利益を得られるかもしれないという視点も必要なのです。