相続対策への焦りから知り合いに誘われたセミナーへ
Aさんは58歳の開業医です。商業施設が立ち並ぶ駅からそれほど遠くないところに眼科医院を構えています。奥様は56歳、専業主婦です。30歳の息子さんと25歳の娘さんはそれぞれ会社員で、娘さんだけが同居しています。
傍目から見るとなんの問題もなく過ごされているようなAさんですが、実は相続対策で大失敗をしてしまったと嘆いています。ことの発端は7年前、知り合いに誘われて出向いた相続対策セミナーをきっかけに不動産投資に手を出してしまったことでした。
ちょうどその頃、Aさんは実父の相続で苦労されており、「相続対策」という言葉にとても敏感になっていました。母親はずいぶん前に亡くなっていましたが、同じ県内に住む父親が認知症になってからは近くに住む姉がいろいろと世話を焼いていたそうです。
実父が遺した財産は、持ち家とわずかな預金だけでした。相続人は姉と2人だし、遺産分けも簡単に終わるだろうと思っていましたが、父親の介護を姉任せにしたと責められ、築50年の実家を「姉から押しつけられた」うえに、代償分割として1,500万円を支払うことになってしまいました。Aさんに聞くと、実家は今でも空き家のままで、頭痛のタネだそうです。
そこでAさんは、ご自身の相続は家族が困らないよう早めに対策しようと決心していました。長男にはいずれ同居をしてもらおう、長女には不動産を持たせよう、不動産なら資産価値を圧縮することができるし、家賃収入があれば嫁いだ後も不自由なくお金が使えるだろう……との目論見でした。
1億円フルローンで夢の「不労所得」のはずが…コロナ禍で一転
そう考えてから、話は急ピッチで進みます。セミナーを主催していた不動産会社に依頼し、勧められた土地を買い、アパートを建て、めでたく不動産オーナーとなりました。仕事が忙しいからと、管理運営はサブリースを選択。そして、不動産投資に係る資金およそ1億円はフルローンとしました。
念願叶ったAさんは、しばらく夢の「不労所得」が生まれ、普段よりも贅沢をすることが増えました。管理会社からの定期報告は、すべて理解できていたワケではありませんでしたが、おおむね良好なのだろうと感じていました。一定の家賃収入があるため、変動金利で調達したローンの返済も滞りなく行われ、特に収支を精査することもなく過ごしました。
しかし、コロナで医院の経営が一転しました。院内の感染対策はもちろんオンライン診療の整備にもお金がかかりました。
また家族関係にも変化が生じています。長男が結婚した際に、同居をして欲しいと強く伝えたところ、「1人で勝手に決めるな」と反発され一気に関係がギクシャクし出しました。昨年初孫が産まれましたが、未だに顔を見ることがかなわず、息子さん夫婦との関係は悪化する一方だそうです。
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