自院の価値が「一番高いとき」に引き渡したい…クリニックの事業承継「売主」が検討すべきM&Aのタイミング

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自院の価値が「一番高いとき」に引き渡したい…クリニックの事業承継「売主」が検討すべきM&Aのタイミング
(※画像はイメージです/PIXTA)

近年、経営者の高齢化や後継者難などを背景に増加している「M&A」について、この流れは医療業界でも広がっているそうです。そこで今回、グロースリンク税理士法人の税理士・医療経営コンサルタントである野田智成氏が、クリニックのM&Aにおいて、「売主が少しでも高く自院を売却するためのポイント」を解説します。

医療機関の休廃業・解散が増えるなか、増加傾向にある「M&A」

近年、医療機関(病院・医院・歯科医院)の休廃業・解散が増加しています。帝国データバンクの「医療機関の『休廃業・解散』動向調査(2023年度)」によれば、2023年度(23年4月~24年3月)は 709件と、2000年度以降で過去最多となりました。

 

なかでも診療所は、前年度(2022年度)に比べ159件増の580件、歯科医院は同33件増の110件と、いずれも過去最多を更新しています。

 

この背景には、クリニック経営者の高齢化や後継者の不在、加えて新型コロナウイルス感染症の流行が影響したとみられています。

 

医療経営を取り巻く環境は厳しさを増しており、今後も事業継続を断念するクリニックは増えていくでしょう。 そうしたなか、クリニックを完全に閉めてしまう「廃業」ではなく、「事業承継」を選択するクリニックが増えつつあります。

 

事業承継といえば、これまでは親子・親族間が基本で、クリニックを継ぐ子どもがいない場合などは廃業するしかありませんでした。しかし近年は、一般の中小企業の事業承継と同様に、医療界でもM&Aによる第三者への事業承継が有効な手段だと認知されてきています。

M&Aの買主は「勤務医」が多い

クリニックをM&Aで第三者へ売却する場合、買主は「病院に所属する勤務医」が多い傾向にあります。特にコロナ以降、既存のクリニックを買収して独立開業するケースが増えた印象です。もちろん、医療法人が買主になるケースもあります。

 

勤務医が独立に際して既存クリニックを買収する理由としては、コロナ禍による開業リスクの高まりや、建築コストの急騰などが挙げられます。以前は1億円で開業できたクリニックも、いまは約1.5倍のコストが必要とされています。そうしたリスクをできるだけ低減するために、既存クリニックをM&Aで事業承継する手法が注目されているのです。

 

また、M&Aは開業時から一定の患者数が見込めるメリットもあります。既存のクリニックの場合、それまで通院していた患者を譲り受けることができるためです。

 

ゼロからのスタートでは、どれだけ診療圏調査などのマーケティングを行っても、実際にふたを開けるまでどれほど患者が来るかわかりません。患者数が採算ラインにまで到達するには、早くても半年程度はかかります。そのため買主の意図としては、M&Aを通じて「集患にかかる時間を買いたい」というニーズがあるのです。

 

もちろん、買主の意図としては、その地域における医療提供者として社会的な意義や医療者としての志を持ってM&Aに臨んでいることはいうまでもありませんが、ビジネスの視点でみると「時間を買う」という意味合いが大きいといえます。

売却のベストタイミングは、経営の「ピーク時」

クリニックの売主にとって、実はこうした「買主側の思惑」を考えることが、自院をより高く売却するうえでの重要なポイントになります。

 

譲渡のベストタイミングは、「クリニックの経営が好調なとき、できればピークのとき」です。買主側は、そのクリニックが抱える患者数に大きな魅力を感じます。

 

しかし、筆者の肌感覚ではありますが、30代で開業し、着実に実績を積み上げて自院の価値を最大限に高めたうえで、そのピークとなる50代で売却を考えるクリニック経営者はほとんどいません。理由は単純で、50代はまだ“現役バリバリ”だからです。

 

実際には、クリニック経営者がM&A で自院の売却を検討するタイミングは、すでに経営者が60~70代と高齢になっており、患者数も減少しつつあるフェーズが大半です。さらに、建物や医療機器などの設備も老朽化しているなど、経営は下り坂に向かっているケースが少なくありません。

 

結論から申し上げると、60~70代で経営がピークアウトしたクリニックは、残念ながら価値が低下します。理想の価格から妥協して値下げしたにもかかわらず、なかなか買主が見つからない、というケースも珍しくありません。

 

クリニック経営者のなかには、「患者は少なくほぼ開店休業状態だが、立派な建物や土地があり、医療機器もまだ新しいから、それなりの価格で売れるだろう」と期待する売主も多いです。しかし、買主側からするとそれは必ずしも歓迎すべきことではありません。というのも、そのようなクリニックは“無駄に”購入コストが高くなるからです。

 

買主からすると“立派な”土地や建物に費用をかけるのであれば、自分で土地を借りて建てたほうが理想のクリニックを低予算でつくることができるでしょう。金融機関からの借入額も抑えることができます。開業を目指す医師からすると、初期投資は少なければ少ないほどいいのです。

 

M&Aといいながら、実情は「居抜きの不動産賃貸物件」となると、買主は魅力に感じません。いくら土地や建物、設備が立派でも、患者がいなければ“ネガティブ要因”と判断される可能性すらあるのです。

売却の準備は5年前から、少なくとも3年前には始めたい

クリニックの理想の売却時期は、先述したように「経営のピーク時」ですが、現実にはそれは難しいと思います。

 

しかし少なくとも、年齢とともに体力が衰え、患者数を絞っていく前には検討を始めたいところです。いったん下がった売り上げを、M&Aを見据えて再び増患増収にもっていくのは、正直なところ極めて難しいでしょう。

 

そこでおすすめしたいのは、引退の時期を決め、その5年ほど前(遅くとも3年前)から出口戦略を練って計画的に動くことです。事前に時間をかけて準備をしていくことで、より納得感のある売却が叶うでしょう。

 

仮になかなか買主が見つからず、なおかつ経営者自身の体調面に問題があって働く時間を短くしなければならないような場合は、非常勤ドクターに入ってもらい、患者数を減らさないようにするのもひとつの手です。実際、すでにこうした工夫に取り組んでいるクリニックも存在します。

事業譲渡の利益を節税できる!?…売主が知っておきたい「税金」のこと

M&Aによる譲渡のタイミングによっては、“医師の優遇税制”と呼ばれる「租税特別措置法第26条(措置法26条)」が使える可能性もあります。

 

措置法26条とは、医業または歯科医業を営む個人に適用されるもので、この税制を適用することで、事業所得の必要経費を計算する際に、実額経費ではなく、概算経費率を利用して申告することが可能です。

 

年間の社会保険診療報酬が5,000万円以下で、事業所得に係る総収入金額に算入すべき金額の合計額が7,000万円以下」というのが同法の適用条件ですが、本来は措置法26条が適用されないクリニックでも、年度途中で事業譲渡できれば、措置法26条が適用され、税制優遇の恩恵を受けられる可能性があります。

 

実額のほうが得か、措置法適用を受けたほうが得かは状況しだいですが、措置法適用を受けて有利になる場合もありますので、確認しておくとよいでしょう。

 

M&A増加の弊害

前述のとおり、クリニック経営者の高齢化や後継者の不在、新型コロナウイルス感染症の流行などを背景にM&Aが増えています。

 

そのようななか、M&Aを手がける医療コンサルティング会社も増えていますが、その「力量」は玉石混交です。単純に売主と買主の“マッチング手数料”を稼ぐようなビジネスも横行しており、M&A成立後に「話が違う」となるようなトラブルも増えています。

 

そのため、自院の売却を検討する場合は、医療業界のM&Aで実績のある企業や税理士などの専門家に相談されることをおすすめします。

 

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著者:グロースリンク税理士法人

税理士/医療経営コンサルタント 野田 智成

 

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