売却のタイミングで発覚した「負動産」の本当の価値
これらの要因が重なったことから、Aさんは不動産投資をやめて医院に投資をしようと考えました。長男が跡を継ぐ夢が消滅した今、いずれは売却も視野に行動したほうが、総合的にメリットがあると判断されたのです。
そこで、不動産会社に売却の気持ちを伝えたところ、思わぬ事実が判明しました。まず、売却見込み額が購入価格のおよそ半分と、大きく下落していたのです。新築は人が入った瞬間に価値が下がります。Aさんがこのことを知らなかったとはいえ、勉強不足は否めません。
サブリース会社に丸投げだったためでしょうか、おしゃれな外観や部屋の仕様にこだわったアパートはそのエリアのニーズにあわず、空室も多かったそうです。もちろん、こだわり物件は退去時のメンテナンスも高い費用がかかります。
そもそも収益を産んでいない「負動産」に、無駄な金利を払っていたことが顕在化したのです。
「相続」税の対策だけでなく「争族」対策も重要
2015年に相続税の基礎控除が改正されたことをきっかけに「相続セミナー」はとても盛んになりました。改正前は基礎控除が、5,000万円+1,000万円×法定相続人の数で計算されていましたが、改正後は3,000万円+600万円×法定相続人の数となりました。
Aさんのケースでは、3,200万円も控除が減るため、不安になるのも分かります。最近は生前贈与加算が3年から7年に引き上げられることに警鐘をならすセミナーが増えているようです。
相続対策には、「相続税」の支払における対策と「争族」対策の2種類があります。
相続税は相続が発生してから10ヵ月以内に現金で納付しなければならないため、納税資金を確保するために財産の流動性を高める「相続税対策」は重要です。また不動産投資は、資産の圧縮に有効ですので支払うべき税金を下げることになります。
一方、不動産は流動性が低いためその後の資金ニーズに対応しにくいというデメリットがあります。Aさんの場合、相続対策に取り組むあまり、今後のご自身の資金用途を考えずに不動産投資に飛びついてしまったことが大きな誤算でした。
また今回の場合、独りよがりな相続対策がかえって「争族」の火種を作ってしまったとも言えそうです。
実際、先走った相続対策で家族の不和を引き起こしてしまう例はAさんだけではありません。家族みんなが円満で過ごすことのほうが、よっぽど「争族」の対策として有効であることを知るべきでしょう。
Aさんは、不動産を精算するため想定外の支出に甘んじることになりました。また息子さんとの関係は反省し、お孫さんへの教育資金援助等も含めて「家族との幸せな暮らし」にお金を使っていくことにしたそうです。
税理士にシミュレーションを依頼し、備えるべき納税資金については保険も活用しながら確保しつつ、これからの暮らしを楽しむため、また健康を維持するためにお金を使っていくのだとおっしゃっています。
山中 伸枝
株式会社アセット・アドバンテージ
代表取締役
© MedicAl LIVES/シャープファイナンス
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