(※画像はイメージです/PIXTA)

日進月歩の進化を遂げてさまざまな分野で導入が進む「AI」。画像認識AIによってがんの早期発見が行われるなど、医療現場でも活用されている事例が増えてきています。今後、AIは医療現場でどのような役割を担っていくのか。対話型AIサービス「ChatGPT」を例に、医療法人梅華会理事長である梅岡比俊医師が解説します。

一時話題になったChatGPT…「医療現場」での汎用性は

ChatGPTには、無料版の「GPT-3.5」ともうひとつ、そのあとすぐにリリースされた有料版の「GPT-4」という2通りのバージョンがあるのをご存じでしょうか。

 

実は、このGPT-3.5からGPT-4へのアップグレードにおいて、ChatGPTは驚異的な精度の向上を見せました。

 

GPT-3.5の知能レベルが司法試験受験者の“下位10%”の水準である一方、ChatGPT4は“上位10%”に匹敵する能力を持ち、司法試験合格レベルに到達したのです。それほど、AIは短期間で進歩しています。

 

一時期話題になったChatGPTですが、実際には「使ったことがない」という声も少なくありません。1度は使ってみたという人も、回答内容のずれや、情報量の過不足などが理由で、継続的な利用にはいたらなかったというのが現状のようです。

 

今後もChatGPTの精度はより高まる見込みですが、とはいえ、最終的な判断は人間(自分自身)が行う必要があるでしょう。この点を理解すれば、ChatGPTは医療現場においても非常に有用なツールとなり得ます。

「スクリーニングはAIが務め、人間が最終判断を下す」未来

ChatGPTを含むAI技術は、医療分野においても、診断やスクリーニングの精度を大幅に向上させる可能性を秘めています。

 

たとえば、胃がんの診断においてAIを活用するとどうでしょう。AIはデータを集積すればするほど精度が上がるため、胃がんの症例を多数見せて「これが胃がんの粘膜ですよ」とAIを教育しておけば、AIは胃がんが疑われる患者の粘膜と蓄積されたデータを比較し、それまで人間が見過ごしていたかもしれない微細な病変をも識別することができるはずです。

 

スクリーニングとは、「一見すると健康そうにみえるが、疾病にかかっている疑いのある人に検査を行い、病気にかかっているか否かふるい分けをすること」ですが、上記のようなAI活用が当たり前になれば、近い将来「スクリーニングはAIが務め、人間が最終判断を下す」という時代が訪れるといっても過言ではありません。

 

さらには、これまで我々が蓄積してきた診断結果に加え、アプリなどから集まるビッグデータ(プロフィールや行動履歴などといった膨大なデータ)をAIが吸収することで、新たな診断手法の開発や健康管理の向上に寄与することも期待されています。

AIは医療現場の「コミュニケーション」にも好影響

病気の説明が患者に伝わらない…“病院あるある”もAIが解決

ChatGPTの活用が当たり前になれば、「医療コミュニケーション」にも大きな変化があるでしょう。

 

病院でよくあるケースに、「医師が使う医学用語が難しすぎて、患者に病気の説明をしても伝わりにくい」というものがあります。

 

こうした際、ChatGPTに医学用語や診療内容を示し、それを「わかりやすく説明してください」と指示すれば、ChatGPTは一瞬のうちに複雑な医学用語を患者が理解しやすい言葉に変換します。

 

医師は、この変換されたわかりやすい言葉を使って患者に説明を行うことによって、医師・患者ともにストレスなくコミュニケーションを行うことが可能となるでしょう。こうしたAIの活用法は当然医師だけでなく、看護師や医療事務、また間接部門の事務方にとっても有効です。

 

すべてAI任せではなく、「AI×人間」の共存で最適な医療へ

しかし、AIがどれだけ進化しようとも、「患者に寄り添い、共感する力」は人間に敵わないと筆者は考えます。あくまでもAIは効率化とスピードアップを担い、最終的には人間がカバー・サポートすることで、患者に対して「効率的で最適な医療」の提供が実現するはずです。

 

これは、処置や投薬に関しても同じことがいえます。たとえば急性扁桃炎であれば、「切開排膿をしたほうがいい」「強力な抗生物質、ステロイドを併用したほうがいい」「入院を勧める」という提案をChatGPTが瞬時に行ってくれれば、その分、医師はより質の高い患者ケアに集中することができるでしょう。

AIは医療業界でも有効…普及のポイントは「コスト」か

AIは現代社会においてすでに、大きな変革をもたらしています。医療業界においても、普及が進めば他業界と同様、大きな影響があることは間違いありません。

 

有料版においては現状、API連携によるコストが非常に高いという問題がありますが、今後しだいに下がってくる見込みです。今回見てきたように大きなメリットがあるChatGPTがローコストで医療現場に普及すれば、医師の教育、ベストプラクティスの構築、顧客対応の改善など、さまざまな場面でAIが医療に貢献する未来が期待されます。

 

したがって、「自分には関係ない」と思わず早い段階からAIに触れ、普及に向けた策を練っておくことが導入の障壁を低くし、ひいては将来的に医療業界の発展につながると筆者は考えます。

 

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著者:梅岡 比俊

【医療法人梅華会 理事長】開業医コミュニティ「M.A.F」主宰

 

兵庫県芦屋市出身。奈良県立医科大学を卒業後、勤務医を経て2008年に兵庫県西宮市に梅岡耳鼻咽喉科クリニックを開設。2011年に医療法人社団梅華会を設立。現在、阪神地区に耳鼻姻喉科4院、小児科2院、東京都内に消化器内科のグループ医院を経営する。2016年に開業医がよりよいクリニック運営を行うための学びの場として、「M.A.F(医療活性化連盟)」を発足。

 

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