サラリーマンの現役引退後の生活を支える「年金」と「退職金」。新卒から定年退職まで勤めた場合の退職金は大企業なら2,000万円、中小企業なら1,000万円程度とされています。半数以上は退職金を「預貯金」にまわすという調査結果がありますが、この「種銭」を使って投資を始めるという人も少なくないようです。今回は、退職金を受け取る頃に金融機関がセールスしてくることが多い、「退職金運用プラン」と銘打った商品の実態をみていきます。
「金利が6%も付くなら」…退職金2,000万円の運用を〈なじみの銀行〉に任せた60歳・元会社員が見落としていたリスクとは? (※写真はイメージです/PIXTA)

金融機関が勧める「定年退職者限定」商品とは?

退職金の使い道として5番目には「資産運用のための金融商品の購入」がランクインしています。また同調査では「初めて投資した年齢」についても聞いており、「60代」が17.8%に上ることがわかっています。そして、投資を始めたきっかけとして、「金融機関に勧められた」という項目が上位に食い込んでいることに注目です。

 

「いまは低金利ですから、預貯金で置いているのはもったいないですよ」
「運用益はお孫さんへのプレゼントに充ててみたらいかがですか?」

 

給与の受け取り口座として長年利用してきた銀行からの提案であれば、耳を傾けてみたくなるかもしれません。

 

しかし実際には、金融機関は「定年退職、おめでとうございます」というメッセージを客に伝える前段階において、客が受け取った退職金額を把握しており、そこから逆算して、金融商品の販売によってどの程度の手数料を稼げそうかという計算まで済ませています。

 

退職金を受け取ったばかりで投資未経験の60歳代というのは、金融機関にとっての「ねらい目」の客層の1つであるに過ぎないのです。

 

購入・運用にかかる「手数料」に要注意

金融機関側に実入りの大きい「仕組債」や「外国債券」などといった金融商品は、マスメディアでそのリスクが指摘されていることもあり、投資初心者であっても警戒感を抱くはずです。しかし、「退職金受給者限定」で、しかも「年率3~6%」というような好条件の定期預金があったとしたら、飛びついてしまう人も多いのではないでしょうか。

 

こうした「退職金受給者限定」の商品の特徴は、定期預金と同額かそれ以上の投資信託や外貨定期預金の買い付けが条件になっていること。たとえば総額で2,000万円を運用する場合、定期預金1,000万円+投資信託1,000万円(以上)を購入するということです。

 

仮に定期預金に1,000万円を預け入れた場合、上に挙げたように6%の金利が付くとしたら、1年後には60万円もの利息を受け取れることになります。超低金利が続く昨今では、魅力的に映るかもしれません。しかし6%というのはあくまでも「年率」。多くの場合、こうした商品で金利の優遇が受けられる、この例でいえば年率6%の条件が適用される期間は3ヵ月であり、したがって受け取れる利息は3ヵ月分で15万円ということになります。

 

「15万円でも、普通預金で置いておくより良い条件じゃないか」

 

と考えるかもしれませんが、セットで購入する商品の購入や運用にかかる手数料にも注意が必要です。

 

実際に大手銀行が販売している投資信託を例にとると、購入時に3.5%を超える手数料がかかります。つまり、1,000万円分の投資信託を購入すれば35万円以上の手数料負担が発生するということです。

 

これでは購入手数料だけで定期預金で稼いだ金利が吹き飛んでしまいます。

 

投資信託は市況によって価格が変動しますから、買付時の資産価格を大きく下回るリスクも孕んでいることもわすれてはなりません。また、セットで購入する商品として、投資信託ではなく外貨定期預金を選択した場合、円貨と外貨を交換する際に為替手数料が発生する上、為替変動リスクを被ることになります。

 

昨今のドル円相場の乱高下をみれば、外貨は、投資初心者が手を出すものでないことは明らかでしょう。

 

なじみの銀行から、「退職金受給者限定の商品です」といったセールスを受けた際には、期間中に受け取れる利息や、購入・運用にかかる手数料について、納得いくまで質問しましょう。どんなに魅力的なセールスだったとしても、自分でリスクを理解できないのであれば投資をしないのが鉄則です。