高齢者を狙う悪質な投資セールス
もう20年以上も前のお話になります。私がFPになりたてのころに、80代の男性が相談に来られました。「日本国債を銀行に勧められて購入したがよくわからないので見てほしい」というのです。
しかし、持参された資料のどれを見ても、国債に関係するものはありません。私がアタフタしていると、そのいかにも怖そうなおじいさんは、「なんだよ、わからないのか!」と怒り出しました。
改めて探してみると、ある「国際投資ファンド」のチラシが出てきました。「もしかして、これでしょうか?」と確認すると、「これだ、これだ」といいます。私はビックリしましたが、改めてそのチラシの商品概要を説明したところ、ご本人も「こんなの買った覚えはない。日本国債じゃないのか?」と驚かれました。
それはハイリスク・ハイリターンの、どう見ても80代の男性に勧めるような商品ではありませんでした。「国債」と「国際」の違い。嘘のような本当の話でしたが、「銀行なのにこんなお年寄りにあくどいことするなぁ」と本気で感じた出来事でした。
ハイリターンの商品は手数料も高くなりますので、セールスする側のメリットはもちろんノルマもあったのでしょう。金融商品取引法も金融商品販売法もなかった時代でしたが、似たようなトラブルが全国であったのか、その後まもなくこういった法律が成立していきました。
「外貨建て保険」の販売に対し、金融庁が監視を強化
しかし、そんな出来事から二十数年経ったいまでも、体質はあまり変わらないのでしょうか。2023年6月末に、「金融庁が一時払いの外貨建て保険の販売や管理の実態について監視を強化する」とのニュースが流れました。外貨建て保険は、銀行でも販売している商品です。
今回の監視強化の理由は「売れば売るほど営業担当者の人事や給与評価が高くなる大手銀行や地方銀行があり、銀行側が顧客に十分な説明をせずに販売しているケースが増えている可能性があるとして、顧客のニーズに沿った商品提案ができていない金融機関があることを問題視しているため」ということです。
金融庁によると、銀行による一時払いの外貨建て保険の販売額は、令和3年度下期には約7,000億円だったのが、令和4年度上期には約1兆2,000億円に急増したとしています。長引く低金利のなかで銀行の収益も悪化しているようですが、こうした経緯からか、外貨建て保険を積極的に販売していることが予想されます。
外貨建て保険とは、契約者が支払った保険料を保険会社が米ドルや豪ドル、ユーロなどで運用する生命保険です。保険期間中に死亡すると死亡保険金が下りる保険機能を備え、保険期間の満了時には支払った保険料に運用益が加算される投資性のある商品です。
しかし、円を外貨に替えて保険料を支払う際や、外貨を日本円に替えて保険金や年金で受け取る際に為替手数料がかかったり、受け取り時の為替相場によっては、円での金額が大きく変動してしまう為替リスク(為替の変動リスク)があるため、注意が必要です。つまり、預貯金と同等の意味合いでは決してないのです。
また、月払いや年払い以外にも、まとまったお金で購入する(一時払いで購入する)こともでき、今回、金融庁が特に問題視しているのはこの一時払い保険です。
為替リスクについて、もう少し具体的に説明しましょう。たとえば、以下のようなリスクがあります。
・一時払いで支払ったときは円安だったのに、その後円高になっていくと受け取り時にリターンが少なくなり、マイナスになる可能性がある
ですが、為替の動きが逆の場合は、当然リターンを得ることができます。
一時払いを例に挙げると、加入時1ドル=140円で保険金10万ドルの保険(保険料1,400万円)を契約した場合、受取金額は以下のようになります。
・受け取り時のレートが1ドル=100円(円高):1,000万円
以上のように、為替レートによって受取金額が大幅に変動するため、受け取り時のレートが円高になると大きな損失を生む可能性があります。