平均年収373万円…「シングルマザー」の住宅購入に潜むリスク
『内閣府男女共同参画白書令和元年版』によると、満20歳以下で子どものいる世帯のうち、親が1人だけの世帯「ひとり親世帯」は全国で141.9万世帯。その多くが母子世帯で132.2万世帯です。ひとり親世帯の86.8%が母子世帯であるということが分かります。
ひとり親世帯は平成5(1993)年から平成15(2003)年までの10年間に94.7万世帯から139.9万世帯へと約5割増加したのち、ほぼ同水準で推移しています。子供のいる全世帯数は毎年減っているため、ひとり親世帯の割合は増加しているということになります。
増加している理由はさておき、特にシングルマザー世帯の収入状況は大変厳しいものになっています。厚生労働省による2020年の調査では、シングルマザー世帯の平均年収は373万円。子どものいる世帯全体の平均が814万円であり、その半分以下という厳しい状況です。
収入や世帯の状況に関わらず、すべての家庭において住まいは頭を悩ます問題です。大きくなっていく子供にプライバシーを確保してあげたい、清潔で快適な住まいを用意してあげたいと思うと、やはり住宅の購入を検討しはじめるのはシングルマザーも同じです。しかし、ファイナンシャルプランナーの立場からいうと、平均的所得のシングルマザーが住宅を購入するのは極めて危険なケースが多いと言わざるを得ません。
年収が低くても買える!? 「ローコスト住宅」に潜む落とし穴
近年、住宅価格が上昇を続けていますが、そのなかで極めて安価で建物を建築する「ローコスト住宅」の人気があります。建材の大量仕入れを行い、デザインや間取りが統一された「規格住宅」を開発するなどの企業努力によって、価格を抑えることができています。なかには気密断熱性能に優れ、太陽光発電システムを標準装備するなど、コストパフォーマンスに優れたローコスト住宅もあるほどです(その一方で最低限の性能・仕様に留まり、劣化の早さと維持費の重い負担が想像できる建物もあります)。
ローコスト住宅を販売する住宅メーカーや不動産業者のなかには、こんな謳い文句で広告を出しているケースがあります。
「家賃と同程度の返済額なので安心!」
「シングルマザーでも家が買える!」
「収入に不安があっても家が買える!」
つまり「収入が少ない世帯でも家が買えますよ」という価格訴求です。確かに安定した収入があり、過去の信用情報に問題がなく、収入に見合った借入額であれば、銀行は融資するでしょう。なかには自己資金(頭金)がほぼゼロだとしてもフルローンで融資する銀行もあるほどです。
そのため貯蓄がほぼゼロでも新築住宅を購入でき、ローコスト住宅メーカーのなかには収入が不安な層をターゲットに価格訴求を行う企業があるのと思われます。
しかしファイナンシャルプランナーの立場からいえば、そもそも収入が少ない世帯や家計運営に重大なリスクを抱えている世帯は、ローコスト住宅だからといって簡単に買ってはいけないのです。ローコスト住宅は確かに安価で手に入るのですが、それは長年住んだ家を建て替えたい高齢者、リタイア後によその土地に移住する計画がある世帯、いずれ実家を相続し住む予定がある世帯など、「いまは安く済ませておきたい」という人にとって「あえての」選択肢であるべきです。
収入が少ない
↓
借りられる住宅ローンが少ない
↓
ローコスト住宅なら買える
という収入から逆算した考え方では、多くは深刻な破綻リスクを抱えることになります。住宅は購入価格(イニシャルコスト)だけではなく、税金や修繕費などの維持費(ランニングコスト)も莫大になります。いくらローコスト住宅であっても一定以上の所得や金融資産がなければ、住宅購入は危険なのです。
たとえ銀行が融資してくれたとしても、「借りられる額」と「返済していける額」はまったく別なのです。「シングルマザーでも買える」という訴求に惹かれ、無謀な住宅購入をしたケースは少なくありません。借りられたけれど、少し計算すると返済していけないのは明らかなのですが、「銀行の仮審査が無事通過しました」という言葉にリスクを忘れてしまうのかもしれません。
Aさんのように母子世帯として平均以上の年収があったとしても、子供の数や年齢によってはたとえ住宅ローンの審査がOKでも、買ってはいけないというケースは非常に沢山あります。借りられるから買ってもいい、では絶対にないのです。ましてや借りられるからその予算で家を買うなどは自己破産の原因を作るだけです。
母子世帯で住まいの不安をお持ちの場合は、焦らずまずは専門家に相談してから検討してください。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表