実際の相談事例を基に、離婚とお金について解説する本連載。今回の相談者は、40代男性。世帯年収1,500万円の「パワーカップル」ですが、元職場の上司である妻は自宅でパワハラ発言を繰り返し、夫婦関係はギクシャク。妻から離婚を言い渡されたとき夫は安堵したといいますが、ペアローンで購入していたマイホームが足枷となり、なかなか離婚協議が進展しません。持ち家離婚カウンセラー・入江寿氏はどのようにアドバイスしたのでしょうか。
世帯年収1,500万円・40代パワーカップルの離婚…露呈した「ペアローンでマイホーム購入」のリスク【持ち家離婚カウンセラー相談事例】 (※写真はイメージです/PIXTA)

持ち家離婚カウンセラーのアドバイス

共有名義の自宅の場合、どちらかが売却をしたいと思っても、もう一方が拒否すれば、売却はできません。売りたくても売れないというリスクがあるということです。

 

今回のケースで問題を複雑にしたのは、元の自宅をペアローンで購入していたことでした。

 

一人がきちんと支払いを続けていたとしても、もう一方が延滞をしてしまえば、きっちり払っている方が返済することになります。たとえ2人がすでに離婚していたとしても、銀行にとっては無関係。連帯債務の場合、離婚していようとも相手の未払い分を払う義務があることを忘れてはいけません。

 

また1度でも延滞をしてしまえば、今後有利な条件で住宅ローンの借り換えができなくなる点も問題です。

 

今回の事例でいえば、夫が妻の持ち分を買い取り、一括返済するために新たなローンを組もうとも、ペアローンの返済に遅延履歴が残っていれば、それは叶わないということです。

 

妻も同様、「名義の一本化」を条件に相場より高めの金利で新たなマンションの住宅ローンを組んでいたようですが、名義が一本化できた後に有利な条件のローンに借り換えようとも、ペアローンの延滞履歴があれば、やはり借り換えができない可能性が高まることになります。

弁護士を起用して公正証書の訂正交渉、4ヵ月後に離婚が成立

その後、筆者は宗男さんから受け取った資料を基に、ローン事前審査に向けて動き出しました。事前承認が下りれば、今度は陽子さんの債務の買い取り、つまり夫婦間の持ち分売買の手続きに入ることになります。

 

離婚協議は長引きました。陽子さんが用意した公正証書の内容に、宗男さんが納得できない点が多かったためです。この期に及んでわがままな要求を繰り返す陽子さんに宗男さんは辟易しましたが、代理人として弁護士を起用して何度も陽子さん側に訂正を要求。ようやく内容に折り合いがついたのは、協議開始から4ヵ月後のことでした。

 

晴れて離婚が成立し、名義と住宅ローンの名義の一本化も無事に完了しました。

 

新たなローン審査もパスして陽子さんの持ち分を一括で清算した宗男さん。初めて筆者の事務所を訪れたときとはまるで別人のような明るい表情になり、「これから2人の子どもと穏やかに暮らせそうです」と、満足した様子でした。