「生活ができない」とTさんが嘆くワケ
前段のようにTさんがうつ病で丸々1ヵ月働けなくなった場合、待機期間後、休業補償給付として30日で約32万円、会社が立替えた社会保険料等を差し引いたとしても約24万円となります。
国税庁の「民間給与実態統計調査」(2020年)から、年齢階層別の平均給与をみていくと、20代後半の年収は、男性が403万円、女性が328万円です。これにより一般的にTさんの休職前の給与が全国平均よりも高いことがわかります。
総務省統計局の全国家計構造調査(2019年)単身世帯によると40歳未満の男性の1ヵ月の消費支出は約16万円となっています。Tさんは都内の賃貸マンションで一人暮らしをしているため、家賃が調査結果の全国平均より高く、1ヵ月の消費支出は約20万円です。休業補償給付は年換算するとおおよそ380万円。20代後半の男性の平均年収よりも少なく、この段階で、すでに都内の生活は厳しくなります。そうはいっても、休業補償給付の支給額範囲内で生活することは可能です。
しかしTさんに話をきいたところ、事情があるようです。ご実家の両親は高齢により仕事を引退し、年金のみの生活をしています。ただ、年金額が少ないことと持病があるため、Tさんが毎月10万円を仕送りしているとのことです。そのため、労災認定され、補償が受けれたとしても、自身の生活が苦しくなるのです。
Tさんだけではない…若者の「働けなくなる」リスク
労災認定されたとしても、手取り額が少なくなってしまい、生活ができなくなる可能性があります。民間の保険には働けなくなった場合の収入保障の就業不能保険があります。ただし、精神疾患は対象外となっている保険があるので、注意が必要です。
すべての若者にいえることですが、特に地方に比べ、物価や住居費用が高くなる都内在住者は働けなくなったときのリスクを事前に考え、備えておくべきです。
また、Tさんのご両親について、生活保護を申請してみるという選択肢もあります。1人で悩まずに専門家に相談することをおすすめします。
参考
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表