現在のがん治療最前線と保険加入現場の実態
伊藤さん夫妻が保険選択をする際に、
・がん治療全般ではなくがん入院に手厚い医療保険を選択
・がんに対する情報が30年以上前のまま
・正しい情報がないにもかかわらず自己判断でネット経由の保険加入
という問題点がありました。それにより、がんのために入ったといってもいい『がんに手厚い医療保険』が、実際がんになったときにまったく機能しないという結果を招いてしまいました。
私は過去に10,000回以上の保険相談会に携わってまいりました。そのなかでがん保険の相談も数多く受けてきたのですが、相談者の多くが、
・がんになったら数ヵ月単位の長期入院になる
・その入院費用でお金が一気に100~300万円かかる
といった印象をお持ちでした。もしそういったシナリオになるのであれば、伊藤さんが加入していたがんに手厚い医療保険から、高額の給付を受けることができ、心から保険に入っておいてよかったと感じたかもしれません。ただそのシナリオは現在のがん治療の実態とはかけはなれた内容です。誤った情報を根拠にすると、当然誤った保険選択になります。
がん保険を始めとした保険に加入するということは、毎月の家計出費を増加させることになります。必要なものには当然出費をするべきですが、大切なことは合理的な判断をするために正しい根拠をもとに納得して判断することです。
ここでは、
・30年前と現在のがん治療の実態の変化
・来店型保険ショップでの相談の是非
といったことについて一例を確認していきたいと思います。
がんの平均入院日数の推移
伊藤さんは今回乳がんの診断を受け、その進行状況などから始めから通院での治療ということになり、加入していたがん入院上乗せ型のがんに手厚い医療保険から、1円もお金を受け取れないという結果になってしまいました。
がんは一般的に早期であれば手術をすることが多いといわれます。手術ということであれば昔もいまも入院をして行うことが多いです。
ただ、仮に手術で入院をしたとしても、
・国の政策
・医療技術の向上
という要因から、実際の入院日数は30年前と比べるとずっと短くなっています。いわゆる入院日数の短期化が進んでいるのですが、過去からの推移は以下のとおりです。
これは厚生労働省が行っている調査のなかの、がん(血液のがんを除く)での平均入院日数の推移なのですが、見てのとおり、30年近く前と比べると約3分の1の水準になっています。そして、がんや手術の種類によっては、2泊3日で退院などということも珍しくはなくなっています。
おそらくこの流れは今後も続いていくことが考えられるので、伊藤さんが加入していたがん入院時に金額が上乗せされるタイプの保障でがんに備えることには、あまり合理性がないといえるかもしれません。
保険担当者の質のバラつき
伊藤さん夫妻は5年前の保険検討時、一旦は来店型保険ショップへ相談に行こうとしていました。ところがネットでの口コミなどを見たところ、担当者の知識が乏しい、お店に行くと勧誘されるといったネガティブなものがあったため、結局はネットで保険商品の情報収集し、契約まで済ませてしまいました。
ただ、がんが心配で加入したにもかかわらず、今回の支払対象外という結果になったしまったことを考えると、やはり加入時の行動に一定の問題があったといえます。
伊藤さん夫妻が気にした来店型保険ショップに対する口コミですが、どうしても致し方ない部分もあるかと思います。口コミがすべて実際の経験に基づくものかどうかはわかりませんが、対応するお店、そして担当者によって、必ずしも期待する品質のサービスが提供されるとは限りません。
しかし、自分で適切に情報収集することができるのであればよいのですが、それもやはり簡単ではないと言えるのではないでしょうか。私が過去に相談対応をしたお客様が、ネットで保険の情報収集をした時の感想として口を揃えて言っていたことが「情報が多すぎて余計わからなくなった」というものでした。
そもそも基礎的な知識を持っていないと、自分に有益な情報を取捨選別することはかなり難しいと思います。そういった意味で、来店型保険ショップである必要はありませんが、保険の専門家に相談することは大切です。
一度で自分にとって最適の相談場所に出会えるとは限りませんが、正しい情報をもとに選択をしないとアクシデントが発生してしまった時に保険の面でも辛い思いをしてしまう可能性があります。ですから、安易にネットに答えを求めるのではなく、正しい情報源を探すというアクションが必要かもしれません。