年金受給額も貯蓄額も十分と思っていても、予想外の事態により老後破産に陥ることはあります。本記事で紹介するSさん夫婦もそうでした。では、老後の生活を安心して送るためにはどうすればよいのでしょうか? 本記事では、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が、Sさん夫婦の事例とともに老後のライフプランについて解説します。
夫婦2人で「年金月27万円・貯蓄5,000万円」、念願の珈琲店を開業し老後を大満喫も…一転「老後破産」に陥ったワケ【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

定年後は珈琲店を開業…セカンドライフを満喫していたSさん夫婦

Sさん夫婦には子どもが2人います。2人とも社会人になり、長男は家庭を持ち孫が1人、長女は独身ですが、会社勤めを辞めて独立開業で1人暮らしをしています。2人の子どもたちが独立したのを機に、夫の退職後、夫婦2人で旅行やショッピングを楽しみ悠々自適の生活を過ごしていました。

 

さらに、長年の夢であった珈琲店を開業。珈琲好きの2人は、退職したら優雅なひとときを友人と過ごしたいという思いがあったのです。少しずつ常連さんも増え、店もこれからというときに子ども達から連絡が入りました。

 

老後の資金計画が崩れ、貯蓄が消えていく…

久しぶりに子どもたちが帰省したところ、落ち込んでいる様子。なにがあったのか問いただしたところ、長男は会社で人間関係がうまくいかず、会社を辞めたものの精神の病気を発症、次の仕事がきまらず悩んでいるとのこと。

 

長女は友人と新規事業を立ち上げたものの、売上が安定しないことと、物価高が重なり経営が苦しく、初期投資の多額の借金がのしかかり困っているとのこと。

 

自分たちがいままで貯めてきたお金は、珈琲店の開業に際し、開業資金等で約1,000万円を使ったため、残りは将来介護等が必要になったときのために貯蓄を残しています。

 

しかしながら、子ども達が心配で老後のために貯蓄していた5,000万円から経済的援助をすることにしました。仮に、長男に生活費の援助として、毎月25万円、長女に1,000万円の資金援助をした場合、10年後には貯蓄が底つきてしまいます。

 

現役世代から高収入で悠々自適に生活してきたSさん夫婦にとって、想定外の出来事に「こんなはずでは……」

老後破産を回避するには?

Sさん夫婦が破綻せず生活するにはどのように改善するとよいのでしょうか?

 

1.Sさん夫婦の日常生活の見直し。

 

2.長男は労災申請を検討。業務上で病気を発症したのであれば、労災保険からの給付が受けられる可能性あり。 また、病状が長引くようなら、障害年金の請求も視野に入れる。

 

3.長女は、外部委託(経営コンサル)等も含め、経営状態の見直しを図る。

 

Sさん夫婦のように、平均以上の蓄えがあっても老後破産は突如として襲ってきます。悠々自適生活を送れるはずの人が老後破産にならないように、まずは退職後のライフプランの見直しが必要です。一般的に退職前に検討するべき主な事項を考えてみました。次のとおりです。

 

1.日常生活を見直す(生活水準の見直し)

 

2. 老後に受け取れる年金額の把握と受け取るタイミングを考える

 

3. 新たな事業を始める場合、安易に考えず、事業計画を立てる

 

4. 子や孫に援助する場合、どの程度までならできるのか、よく話し合う

 

5. 医療や介護など将来かかりそうな出費に備え、必要な保険の見直し(不要な保険の解約等)

 

6.想定外のときは自分たちだけで判断しない(専門家のアドバイスを受ける)

 

ある程度貯蓄がある人の主な老後破産は、生活水準が下げられずに起こるケースと、想定外の高額な資金の流出するケースなどが挙げられます。特に人生の成功者と言われがちな人は第三者に相談することをためらい、自分達で何とかしようとして破産につながるケースも少なくありません。

 

まとめ

人生100年時代と言われ、仕事を引退してからの期間も長くなっています。また、多様な働き方が推奨されるなか、セカンドライフに新たなやりがいや働きがいを見つける人も多くなっています。特に新たな事業を始める際、日常生活の見直しや働けなくなったときの備えも含めて検討し、専門家に相談することも必要です。

 

<参考>

総務省統計局 家計調査報告(貯蓄・負債編)-2022年(令和4年)平均結果-(二人以上の世帯)世帯属性別にみた貯蓄・負債の状況

2021(令和3)年 国民生活基礎調査の概況

 

 

三藤 桂子

社会保険労務士法人エニシアFP

代表