世帯年収1,600万円のN夫妻。お金や暮らしに関わることはなんでも話し合って決めるなど、良好な夫婦関係を築いてきました。しかし、妻が「怪しい言動」を繰り返すようになって、急展開。夫婦は深刻な家計破綻危機に陥ってしまったのです……。いったいなにがあったのでしょうか。長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
「世帯年収1,600万円・30代勝ち組夫婦」の転落劇…住宅ローン月7.7万円を払えず貯金4,000万円はパー、多額債務者へ落ちたワケ【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

崖っぷちN夫妻に「解決策」はあるのか?

まず、住宅ローンについては、妻のRさんはすでに滞納を続けているため、このままでは夫のNさんが「一括返済」を求められることになりそうです。しかし、早いうちにNさんが単独債務として住宅ローンを借り換えることができれば、家を失わずに済む可能性があります。

 

妻の借金の総額は非常に高額であることが予想され、おそらく完済は不可能でしょう。Nさんが代わりに返済しようにも、貯蓄がありません。様子を見て弁護士に依頼し、自己破産するのが現実的かと思います。

 

妻がNさんの口座から抜き取った4,000万円は、状況から推測すると、やはりネットワークビジネスの仲間に見栄を張るために商品の買い込みをし、豪華な生活を見せびらかすために散財したものと思われます。「仲間から成功していると思われたい」などといった虚栄心から浪費をし、不正行為を働く人は少なくありません。お金儲けをしたかったはずなのに本末転倒です。

 

弊社の経験上、そういった副業ビジネスの仲間内で、いつの間にか生命保険や投資、暗号通貨など、ビジネスとは関係のない金融商品を売りつけられているケースもよくあります。Nさんの4,000万円も、そのようにして消えてしまったのかもしれません。

 

結婚生活を続けたいのであれば、悔しいですが消えた4,000万円は諦めたほうが得策です。また、筆者はNさんに、「ネットワークビジネスの勧誘トラブルで被害を申し立てている人(先述した中年の男女)がいるため、妻Rさんが訴えられる可能性も高い」ということを伝えました。

 

妻が“ビジネス”から完全に足を洗えば立て直しは「可能」

幸いNさんの信用状態には傷がついておらず、安定した収入もあるため、妻がこの副業を辞めるのであれば、ご夫婦の今後のライフプランは立て直しが可能です。妻の負債はリセットされるため、貯蓄をまた1から始めればいいだけです。

 

また、Rさんが再び就職し、年収400万円程度でも働いてくれたら、世帯年収は1,400万円と十分です。お金の面では絶望することはありません。

 

ただし、ネットワークビジネスに代表されるように、成功願望を刺激し依存させるような人間関係を持っていると、妻がそこから脱出するのはかなり困難です。自己破産をしていても、むしろ自己破産など負の状況を背負うとなおさら、「仲間」に依存し執着するものです。また、相手側も「養分」としての「仲間」を手放すはずがありません。Rさんがいまある人間関係をすべて断たないうちは、家族としての復活は難しいでしょう。

 

「なぜ妻は仕事まで辞めてしまったのでしょうか」とNさんは首をかしげますが、おそらく職場の同僚にもネットワークビジネスを勧誘し、厳重注意を受けていたのではないでしょうか。加えて多重債務の不安から集中力を失ってミスを連発し、退職に追い込まれるケースは珍しくありません。

 

「他人事だと思っていたが、こんなことが我が家で起きるなんて……」Nさんの落胆ぶりは気の毒なほどでした。

謝罪は一言もなく…話し合いは「決裂」

Nさんは妻と話し合う機会を設けましたが、結果的に話し合いは決裂に終わりました。妻は、Nさんがなにを言っても「あなたが悪いのよ」と繰り返します。「わかった。おれのなにが悪かったんだ」と質問しても、「仕事で家を留守にしがちだった」「私は傷ついている」と要領を得ません。

 

Nさんの口座にあった4,000万円はなに使ったのかと問いただしても「きちんと返します!」と語気を荒げて言い放つだけです。「いや、返す返さないの前に、ちゃんと説明してほしい」と諭しますが、妻はあからさまに苛立ちを隠せない様子です。

 

住宅ローンのことも、4,000万円のことも、謝罪は一言もありませんでした。

 

ほどなくして、N夫妻は離婚することになりました。住宅ローンは単独債務に借り換えることで危機を脱出。妻のRさんは自ら家を出たため、その後どうなったのかはわからないままです。離婚したあとも債権回収会社から通知が届いていたので、もしかしたら放置したままなのかもしれません。

 

Rさんがそもそもなぜマルチ商法にハマってしまったのか、その理由は定かではありません。しかし、ふとしたことがきっかけで洗脳され、家計破綻に陥ってしまうケースは、たとえ他人が羨むほどの高所得の家庭であっても例外ではないようです。

 

 

長岡 理知

長岡FP事務所

代表