49歳・製造業で働くAさんは、いわゆる就職氷河期の影響により、非正規雇用での労働を余儀なくされた「団塊ジュニア」と呼ばれる世代です。正社員よりも年収が少なく日々の生活の困窮はもちろん、老後資金の問題も徐々に迫ってきています。本記事では、FP1級の川淵ゆかり氏がAさんの事例とともに、団塊ジュニア世代の貧困問題について解説します。
手取り月17万円・49歳で寮生活の非正規…「老後破産」が垣間見えた“団塊ジュニア世代”の怨念「時代を恨みます」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「2025年問題」の先も続く、高齢者問題

「少子高齢化」という言葉が出てきて長く経ちますが、問題が本格的に表面化してくるのはまだまだこれからです。特に団塊世代のすべての人が後期高齢者となる「2025年問題」は、医療や福祉の分野で大きな問題となってきます。

 

いまは70代でもまだまだ元気な方が多い時代になりましたから、2025年に入ったとたんにすぐにどうなるというわけでもないでしょうが、それでも80代に入ると病気やケガで入院したり介護のお世話になったりといったケースが増えてきます。年々人手不足や社会保障費増大の問題も深刻化していますので、2030年ごろからは本当に日本は厳しい時代に突入してくると考えます。

 

そして、このころからはAさんのような団塊ジュニア世代が60代になっていきます。団塊世代の現役時代は預金金利も高かったので、老後資金を十分に作れて、退職金も十分受け取れたという人が多かったのですが、団塊ジュニア世代は正社員でも老後資金作りが難しくなっています。ですから、高齢者問題は団塊世代よりも団塊ジュニア世代のほうが厳しくなり、今後30年以上は続いていく大きな問題になっていくことになります。

 

さらに、インフレが高齢者を苦しめます。40年ぶりのインフレといわれていますが、これからも経済力低下により進む円安や人件費高騰による値上がりで、家計は厳しくなっていくと思われます。物価が上がっても年金はほとんど増えませんし、預金金利も低いままでは投資リスクの大きくなる高齢者では老後資金もどんどん減っていきます。

 

国が高齢者の生活を守ってくれるかというと、そう簡単にはいかなくなってきます。国債をはじめとする国の債務残高はすでにGDPの2.6倍(世界1位)となっており、これは第二次世界大戦で膨れ上がった債務残高(GDPの2倍)をすでに超えています。

 

日本の予算は税収だけでは賄えず国債等に頼っています。そして予算の1/3超が社会保障費ですからこれからどこまで国債等に頼っていけるかも非常に重要な課題です。高齢者の貧困問題は今後ますます大きな問題となってくるでしょうし、現役世代の家計にも当然大きく影響してきます。

その後のAさんは…

さて、Aさんにはその後母親から「父親が体を壊して動けなくなった。心細いので帰ってきてほしい」との連絡がありました。筆者は、一度帰郷して父親とは話せなくても母親と話すことを勧めました。Aさんは大変悩みましたが、その後、母親と話し合い、実家の近くで介護の仕事をみつけ、ご両親と同居することを決めました。

 

「父親とはいまもあまり話したくはありません。でも、父親の病気をして弱った様子や母親の年老いた姿を見ると傍にいてあげたほうがいいのかな、と。介護の仕事は初めてで大変ですが、親の面倒を見るのにも役立ちますし、1日も早く慣れるように頑張ります」

 

お父さんも過去の言葉を後悔しているかもしれません。Aさんも優しい人です。経済的に見てもAさんにとってはご両親との同居がベストと考えました。Aさんに少し笑顔が戻ったことがとても嬉しいです。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表