認知症を患った妻を20年間介護してきた87歳Yさん
87歳のYさんは、20年間、妻の介護をしていましたが、その妻は85歳で亡くなってしまいました。妻は63歳を過ぎたころからもの忘れがはじまり、65歳を過ぎてから周りが心配するほどに症状が酷くなり、認知症と診断されました。その後も認知症の症状は進み、妄想や幻覚を見ることや徘徊行動もとるようになっていました。
昼間は、施設に預けながらも、妻の帰宅後はYさんが妻の面倒を看ていました。Yさんは、現役時代には中堅企業に勤め、人生設計も考えていたため、60歳の定年までに老後の生活費には困らない程度の資産を築いていました。しかし60歳になっても働く意欲はあったので、雇用延長をして働き続けていたときのことでした。
初期症状は、よくあるもの忘れで、年齢によるものだと思っていたので、Yさんもあまり心配していませんでした。Yさんが仕事を辞めてからは、昔から考えていた、妻との旅行や趣味を一緒にしたいという夢を叶えようと、妻と一緒に習い事を始めたり、年に1回の旅行をしたりもしていました。
しかし妻の症状が少しずつ進んでいくのも感じていたので、妻を説得し、病院に行くことを決めたのです。結果はやはり、認知症という診断を受けました。認知症を患っている場合には、老齢年金の受給の手続きも行うことはできませんが、幸いにも老齢年金の受給手続きは終わっていたので、妻の口座に年金が振り込まれていました。
妻の葬式で、妻の兄弟からいわれた衝撃の一言
妻が認知症となって、妻の口座には年金が振り込まれていましたが、凍結されていたため、引き出すこともできず、これまで貯めていた貯蓄とYさんの老齢年金(月14万円)で、生活と介護費用を賄ってきました。 その期間は実に20年にもおよび、夫婦2人でゆとりある生活が送れると思っていましたが、妻の認知症の介護と生活費でそれまでの貯蓄も取り崩していくことになりました。
妻が先立ち葬儀を行った際には、妻の兄弟も参列しました。 葬儀もほどなく終わり、親族とお斎を取りました。Y夫婦には子供がおらず夫婦2人で、Yさんは介護疲れはあったものの妻との別れはとても悲しく、落ち込みを隠せませんでした。
妻の親族には、弟がいました。妻の弟にはひ孫までいる大家族で、認知症になったYさんの妻である姉のことが心配ではありましたが、連絡を取り合うこともなく疎遠な状態となっていました。
そんな妻の弟はお斎の際に、大きく肩を落としながらも気丈に振る舞うYさんに対して、
「相続財産があると思うから、財産分与をよろしく」と発しました。
Yさんは耳を疑いましたが、確かに財産分与という言葉が耳に入ってきたことにとても驚き、呆然としてしまいました。この日は妻の弟に「わかった」とだけ返しておきましたが、Yさんは悲しみに追い打ちをかけられた気分でさらに落ち込んでしまいました。