育児はなぜつらく感じるのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の乾愛氏が、自治体の乳幼児健診で取得した育児中の保護者への質問紙調査のデータを統計学的分析し、紐解いていきます。
育児は何がしんどいのか?…完全母乳5割強、同室就寝・育児協9割強も、睡眠は最短2時間、育児負担感は「育児への束縛による負担感」と「育て方への不安感」がカギ (写真はイメージです/PIXTA)

6―対児感情尺度からみる育児負担感

最後に、荒牧らが開発した対児感情尺度*12という育児負担感を図るスケールを用いて調査した。

 

その調査の結果、「育児への束縛による負担感」(N=735)は、平均8.38±2.75点、最小が4点、最大が16点であった。「子どもの態度や行為への負担感」(N=734)は、平均7.30±2.96点、最小が4点、最大が19点であった。「育て方への不安感」(N=734)は、平均8.85±2.96点、最小4点、最大16点であった。「育ちへの不安感」(N=733)では、平均6.61±2.5点、最小2点、最大16点であった。「育児への肯定感」(N=733)では、平均14.73±2.5点、最小は4点、最大は16点であった。

 

育児の肯定感と4つの負担感の点数には大きな乖離があり、グラフにすると負担感の差異が分かりづらいため、今回は4つの負担感だけに絞り、各得点を選択した人数を図表4へ折れ線グラフとして示した。

 

各負担感の特徴をみると、「育児への束縛による負担感(青線)」では、4点から16点の得点幅のうち、8点に該当する者が114名とピークに山型の曲線を描いている。

 

「子どもの態度や行為への負担感(緑線)」については、4点から20点の得点幅のうち、5点に該当する者がピークに、高い得点に移行するにつれて該当する者は減少傾向にあることがみてとれる。

 

「育て方への不安感(赤線)」では、4点から16点の得点幅のうち、12点に該当する者が99名とピークを迎え、8点から12点に該当する者が幅広く存在している。

 

「育ちへの不安感(オレンジ線)」については、4点から16点の得点幅のうち、4点に該当する者が217名と最も多く、再度8点で該当者が増えるものの、それ以降の高い得点に該当する者は非常に少ない。

 

これらの各得点に該当する者のピークとボリュームゾーンを考慮すると、ピークが5点にある「子どもの態度や行為への負担感」及びピークが4点にある「育ちへの不安感」などの不安感については、全体的に感じる者は少ない。

 

一方で、これらよりも得点ピークが高い8点である「育児への束縛による負担感」と、これらの中で最も得点ピークが最も高い12点である「育て方への不安感」については、育児のしんどさとして感じている者が多ことが明らかになった。

 

また、育児への肯定感に関する設問の平均値が14.73±2.5点であるのに対し、負担感に関する4つの設問の平均は7.93±2.80点と、6.80点ポイントの差があることから、 基本的には、育児に対する肯定感がある中で、育児の負担感も生じている構造と解釈して差し支えない。

 

しかし、どの設問においても、最小値と最大値の開きがあることから、育児に関する負担感をあまり感じない者がいる一方で、育児に関する負担感を非常に感じている者がいるということにも留意しなければならない。

 

行政保健師としての臨床経験からも、育児に関する感受性は個人で大きく異なりことを感じており、子どもの標準発達が順調で子どもに関して憂慮する点がなくても、保育者の感じ方、受けとり方ひとつで、大きな負担を感じることがあるということを知る必要がある。

 

*12:荒牧らが開発したこの「対児感情尺度」は、「育児への束縛による負担感」、「子どもの態度や行為への負担感」、「育て方への不安感」、「育ちへの不安感」、「育児への肯定感」の5つの項目で構成されている。他のスケールでは、育児の負担だけを問われると、育児負担が実測よりも大きいと感じて回答してしまうバイアスがかかる可能性が拭えないが、このスケールは育児の肯定感を設問へ入れていることで、育児で感じるプラス面とマイナス面がバランスよく測れるとされている。

 

【図表4】
【図表4】