2022年に生まれた子どもの数(出生数)が過去最少を更新し、80万人を下回る見込みと報道されました(※)。ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏が出生数の変動要因である出生率等の動向を確認した上で、公的年金への影響を考察していきます。(※)2023年2月28日に公表されたのは「人口動態統計速報(2022年12月分)」であり、日本における日本人のほか、日本における外国人、外国における日本人などを含んでいる。今後、日本における日本人の出生率の概数等を記した「人口動態統計月報年計(概数)」が6月上旬に公表され、確定数を掲載した「人口動態統計年報」は9月に公表される予定である。
出生数80万人割れで年金はどうなる? (写真はイメージです/PIXTA)

1―出生数の変動要因:過去の出生率低下と近年の出生率低下の双方が影響

出生数が変動する要因は、母親となる年齢層の人口の動向と出生率の動向とに区分できる。

 

母親となる年齢層の人口として合計特殊出生率の対象となる15~49歳の動向を見ると(図表1)、15~49歳の合計は1996年をピークに減少傾向にあり、出生率が高い25~34歳の合計も2001年をピークに減少傾向が続いている。出生率の低下傾向が始まった1970年代半ばに生まれた世代が50歳に近づき、その子ども世代が出生率が高い年齢層に近づいている。これは、少子化の悪循環(スパイラル)が3巡目に入りつつあることを意味する。2017年に公表された将来推計人口でも、母親となる年齢層の人口は減少傾向が続く見通しになっている。

 

【図表1】
【図表1】

 

出生率の動向を見ると(図表2)、合計特殊出生率は2006年から上昇傾向にあったが、2016年から再び低下傾向となっている。新型コロナ禍の影響が話題にはなるが、合計特殊出生率の前年からの低下幅は新型コロナ禍前の2019年に-0.06と大きく、新型コロナ禍下の2020年と2021年は-0.03ずつにとどまっている。年齢階層別に見ると、2019年は40歳未満で低下し、2020年と2021年は20代後半での低下が顕著だった。20代後半の低下には、新型コロナ禍下の活動制限などに伴う婚姻率の低下*1が影響した可能性が考えられる。

 

【図表2】
【図表2】

 

このように、出生数が過去最少を更新する背景には、過去の出生率低下による母親となる年齢層の人口の減少と、近年の出生率低下の双方が影響している。

 

*1:25~29歳の初婚婚姻率は、2018~2021年にかけて、男性が4.615%→4.642%→4.066%→3.783%、女性が5.571%→5.627%→4.858%→4.496%と低下した。

2― 年金への影響:少子化が進むと将来の給付水準が低下。ただし過去にはより低い推計も

年金制度は、人生の中でも長期にわたって関わり続ける制度であるため、長期的な視点で運営されている。通常は説明を簡潔にするため一部しか示されないが、年金財政の将来見通しは幅を持った複数の前提を使って計算されている。

 

出生率については、国立社会保障・人口問題研究所が作成する将来推計人口の中で、高位・中位・低位の3種類が設定されている。ごく大雑把に言えば、将来の高位は現在の南九州相当、将来の中位は現在の全国平均相当、将来の低位は現在の東京相当の水準になっている*2

 

近年の合計特殊出生率の実績を直近(2017年公表)の将来推計人口の設定と比較すると(図表3)、2019年に予想を超える大幅な低下で低位に近づいたものの*3、その後はほぼ想定通りの低下となっている。また、過去の将来推計人口の低位は直近の推計の低位よりも低く設定されており、過去の年金財政の将来見通しはこの低い水準を仮定して計算されていた。

 

【図表3】
【図表3】

 

年金の将来見通しは、出生率のほか経済前提などによっても変わる。直近(2019年)の将来見通しをもとに、将来の年金の水準が足下(2019年度)と比べてどの程度低下するかを大雑把に整理すると(図表4)、出生率が推計時点の全国平均並みで推移して経済が政府の戦略どおりに成長すれば-2割弱の低下で済むが、経済が成長しても出生率が推計時点の東京並みに下がれば-2割強の低下となる*4。さらに、経済が低迷して出生率が推計時点の東京並みに下がれば、-5~3割強の低下となる見通しになっている。

 

【図表5】
【図表4】

 

2020年に行われた国勢調査の結果などを反映した新しい年金の将来見通しは2024年に公表される見通しであり、将来見通しで使用する新しい将来推計人口は今春に公表される見通しである。今後の動向を注視したい。

 

【図表5】
【図表5】

 

*2:2017年4月に公表された将来推計人口では、将来の合計特殊出生率が、高位は1.65、中位は1.44、低位は1.25、と設定されていた。2016年12月に公表された人口動態統計年報(確定数)では、鹿児島が1.68、全国平均が1.44、東京が1.24である。なお、2002年公表された将来推計人口では、東京に着目して低位の前提が設定されている。

*3:低位推計では2018年から2019年にかけての低下幅を-0.04と設定していたが、実際には-0.06であった。

*4:なお、現在の将来見通しは約100年後までの収支の均衡を図れる給付水準(給付削減の停止)を計算しているが、約100年後までの推計では、少子化の影響のうち保険料収入に与える影響(加入者数の減少)に比べて将来の給付費に与える影響(受給者数の減少)が短期間しか現れない。このため、約100年よりも長い期間の財政バランスを考えた場合と比べて、少子化の進展や抑制の影響がやや大きく出る傾向がある。