年金を増やすことができる「繰り下げ制度」だが、思わぬ落とし穴も
ただ、最近は60歳の定年をもって仕事を止めてしまう人は少数派。多くが再雇用制度などを利用して、そのまま働き続けるのが一般的です。また現行、原則65歳から年金を手にできますが、「働いている間は年金の受け取りは先にしよう」と選択する人も。
年金の受け取りを先延ばしにすると、将来的に受け取る年金額を増やすことができます。これが「年金の繰下げ受給」。66歳以降75歳までの間で繰り下げて増額した年金を受け取ることができ、その増額率は一生変わりません。また、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げることも可能です。その増額率は増額率1ヵ月あたり0.7%。75歳まで繰り下げると84.0%、受取額はアップします。
前出のサラリーマンの場合、75歳まで年金の受け取りを繰り下げたとしたら、手にする年金は30.7万円。パートナーも同様に考えると、夫婦で月42万円ほどの年金を手にすることになり、これが生涯続く計算です。
「これだけ年金があれば、悠々自適な生活が送れる!」
そうせっせと働き、75歳まで年金の受け取りを繰り下げたとしましょう。ただ年金の繰下げに際し、いくつか注意点があります。そのなかでも大きなものが「認知症」です。65歳以上の認知症患者数は2025年には約675万人(有病率18.5%)と、高齢者の5.4人に1人程度と予測され、年齢を重ねるごとに発症リスクが高まることは知られています。仮に年金繰下げ中に認知症になってしまったらどうなるのでしょうか。
年金の受給を開始するには、年金請求書に必要事項を記入し、必要書類とともに年金事務所等に提出します。これには代筆が認められ、委任状持参で代理人が手続きすることも可能です。ただし、いずれも本人の意思表示が前提です。
また年金受取口座は、年金受給者の本人名義の口座を指定します。認知症の場合、金融機関の判断により口座凍結にいたることもありえるでしょう。
つまり「年金が受け取れない!」「まさか年金ゼロ円⁉」という事態に陥るわけです
もちろん、このようなケースでは泣き寝入りするしかない、ということではありません。成年後見人を選任したうえで年金の受け取りを請求したり、口座凍結の解除を申請したりすれば、予定通り、84%アップした年金を受け取ることができます。
年金を増額できる「年金の繰下げ受給」の制度。起こりうるリスクと対処法も合わせて知っておきたいものです。