年金暮らしを望むなら…外せない「物価上昇」の視点
いま現在、老後の生活にいくら必要なのかを考えるうえでは、「物価上昇」は避けて通れない問題だろう。2023年に発表された全国消費者物価指数は前年同月比で4.0%の上昇であった。この上昇率がずっと続くかは疑問符がつくが、日本政府と日銀は、物価安定の目標として2%物価上昇を目指している。
物価が2%上昇したとしても、収入も同じように上昇すれば問題がない。しかし、現行の公的年金制度では、マクロ経済スライドによって調整されてしまい物価上昇率まで年金が増えない仕組みになっている。
2023年度の改定では、物価上昇率が2.5%に対し、年金の改定額は1.9%の引き上げとなった。調整率は、前年のマクロ経済スライド未調整分も含め▲0.6%の調整となった[図表3]。
このように、公的年金で生活していくうえでは物価上昇による支出の増加も考慮する必要がある。
医療費、介護費用のリスクも
また、老後ずっと健康で過ごせれば良いが、そうはいかないかもしれない。厚生労働省の「健康寿命の令和元年値について※1」をみると健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間は、女性が75.38歳、男性が72.68歳となっている。
つまり、平均寿命から考えると女性は12.06年、男性は8.73年健康でない期間があるということだ。高齢になるほどさまざまな病気にかかりやすくなり、医療費が多くかかる。
厚生労働省「令和2(2020)年度国民医療費の概況※2」を見ると65~69歳は48.5万円、70~74歳は61.5万円、75~79歳は76.3万円、80~84歳は90.2万円、85~89歳は102.1万円、90歳以上は112.3万円の医療費がかかっていることがわかる。
さらに、医療費以外の費用もかかる可能性もある。介護費用だ。公益財団法人生命保険文化センターの「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査」によると、介護を行った期間の平均は約5年1ヵ月(61ヵ月)であった。
10年以上の割合も高く、介護期間の長期化も想定しなければならない。費用面を見ると、一時的な費用が平均74万円、月々の介護費用が平均8.3万円であり、単純に平均期間で計算すると介護費用として約581万円が必要となる。
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