(※画像はイメージです/PIXTA)

「相続」というと「相続税対策」に目が行きがちです。しかし、相続で問題となるのは、それだけではありません。あらかじめ結論を示せば、3つの重要な問題点があります。そこで、相続対策を考えるうえで絶対に押さえておくべき3つの問題点を解説します。

はじめに|相続における3つの問題

相続対策とよばれるものは、以下の3つに集約されます。この順番どおりに対策を考えることが必要です。

 

【3つの相続対策】

1. 相続争いの予防・抑止

2. 相続税対策(相続税の節税)

3. 相続税の納税資金準備

 

それぞれについて、どのような問題が考えられるのか解説したうえで、どのような対処法が考えられるのか、簡潔に紹介します。

相続対策1|相続争いの予防・抑止

まず、考えるべきは、相続争いの予防・抑止です。残された家族が相続財産をめぐって争うことは、何よりも回避しなければならないことです。

 

突き詰めると、遺産をどのように分けるのか、できるだけ公平に、かつ、家族の意思になるべく寄り沿った形で決めるということが大切です。

 

そのためには、以下の2つが必要です。

 

【相続争いの予防・抑止のための対策】

1. 財産をできる限り分割しやすい形にしておく

2. 不可分かつ大きな財産がある場合には遺言を残しておく

 

◆1.1. 財産をできる限り分割しやすい形にしておくこと

第一に、財産をできる限り分割しやすい形にしておくことです。これは、相続人間で公平に分けやすくするためです。

 

真っ先に思いつくのは、現預金の比率を高めておくことです。相続税の課税対象とならないのであれば、これが最も理想的です。

 

しかし、相続税の課税対象となる場合、現預金の比率を高くすることは、相続税の負担を軽減する効果が乏しくなってしまいます。

 

そこで、このあと、お伝えする相続税対策も兼ねて、いわゆる「不動産小口化商品」や、あらかじめ居室ごとに区分所有登記をしたマンションを購入するなどの方法が考えられます。

 

◆1.2. 不可分かつ大きな財産がある場合には遺言を残しておくこと

では、不可分かつ大きな財産がある場合はどうすれば良いでしょうか。

 

例えば、保有する財産のうち、自宅の土地建物や、自身が経営する会社の自社株式等といった不可分な資産が大きな割合を占めている場合です。

 

この場合、誰かひとりにその財産を相続させようとすると、他の相続人の「法定相続分」または「遺留分」を侵害してしまう可能性があります。

 

そこで、このような場合は、遺言を残しておくことをおすすめします。遺言によって法定相続分と異なる配分を指定することができます。

 

ただし、遺留分については、遺言によって排除することができません。なぜなら、遺留分は各法定相続人の最低限の取り分として保障されたものだからです。

 

もし、不可分かつ大きな財産を特定の方に相続させることによって他の法定相続人の遺留分が侵害されてしまう場合、最終的には「お金」で解決するしかありません。

 

すなわち、大きな財産を相続する方が、他の法定相続人に対し「代償金」を支払うという解決方法です。

 

ただし、その場合、相続人が代償金を準備しなければならないという問題が発生します。そこで、生命保険に加入し、その相続人を保険金の受取人に指定しておく方法があります。

相続対策2|相続税対策(相続税の節税)

次に考えるべきは、相続税対策、すなわち、残された家族の相続税の負担をできるだけ軽くしてあげることです。

 

相続税の課税対象となるのは、相続財産が相続税の基礎控除額を超える場合です。

 

相続税の基礎控除額は以下のとおりです。

 

【相続税の基礎控除額】

3,000万円+600万円×法定相続人数

 

たとえば、相続人が配偶者と子2人の場合、基礎控除額は、4,800万円であり、この額を超えた額について相続税が課税されます。

 

相続税対策で重要なのは、資産価値の評価額(相続税評価額)を引き下げることです。以下の3つが考えられます。

 

【相続税評価額を引き下げる方法】

1. 不動産の活用

2. 生前贈与の活用

3. 一時払いの生命保険の活用

 

◆2.1. 不動産の活用

第一に、不動産を用いる方法です。

 

不動産は、そもそも、相続税評価額について「路線価」「固定資産税評価額」といった特有の評価方法があり、市場価格よりも評価額が低く抑えられます。

 

また、自宅の敷地、事業用建物の敷地、賃貸している建物の敷地については、これらを引き継ぐ遺族の生活の糧となることに着目した「小規模宅地等の特例」による評価減の制度があります。

 

なお、これらに着目し、事業用マンション等を小口化した「不動産小口化商品」が相続対策向けの商品として販売されています。

 

◆2.2. 生前贈与の活用

第二に、生前贈与を活用する方法です。

 

生前贈与については、従来、贈与税について「暦年課税」を選択して年110万円の「基礎控除」の枠の範囲内で複数年にわたって贈与する方法が主流でした(暦年贈与)。また、「住宅資金贈与の特例」「教育資金贈与」などの優遇措置も、相続税対策として機能してきました。

 

しかし、これらの制度については、従前から、「富裕層のみをことさら優遇し格差の固定化につながる」との指摘がありました。そこで、2022年12月に発表された政府の「2023年度税制改正大綱」において、これらの方法について一定の制限が加えられました。

 

すなわち、まず、年110万円の「暦年贈与」については、生前の最後の7年分について、100万円を除いて相続財産への「持ち戻し」をしなければならなくなりました。

 

次に、「住宅資金贈与の特例」「教育資金贈与」については継続が決まりましたが、相続税対策としての活用が事実上制限される措置がとられました。

 

代わって、今まであまり活用されてこなかった「相続時精算課税制度」が大幅に拡充され、使い勝手が格段に向上することになりました。

 

相続時精算課税制度は、上述した「暦年課税」と並ぶ贈与税の課税方法のひとつです。ポイントをまとめると以下のとおりです。

 

【相続時精算課税制度のポイント】

・総額2,500万円までの生前贈与について贈与税が非課税となる

・年110万円までは基礎控除を受けられる(相続開始後の「持ち戻し」はない)

・2,500万円を超えた部分について贈与税の税率が20%に抑えられる

・相続時に贈与財産の相続財産への「持ち戻し」が行われ、相続税が課税される(既に支払った贈与税は控除される)

 

今後は、この相続時精算課税制度が、相続税対策のスタンダードとなると考えられます。

 

ただし、生前贈与を活用する場合、相続争いを防ぐため、特定の相続人のみをことさら優遇することのないよう配慮する必要があります。

 

◆2.3. 「一時払いの生命保険」の活用

第三は、「一時払いの生命保険」を用いる方法です。これは、ごく大ざっぱに表現すれば、「保険料」と「死亡保険金」がほぼ同じ金額の生命保険です。

 

これには、以下の効果があります。

 

【「一時払いの生命保険」の効果】

・「保険料」は相続財産から除外される

・「死亡保険金」について「500万円×相続人数」の額が相続税非課税となる

 

なお、死亡保険金については、「1.2. 不可分かつ大きな財産がある場合には遺言を残しておくこと」の最後に述べたように、大きな財産を相続した相続人を受取人にして、他の法定相続人の遺留分を侵害した場合に支払う「代償金」に充ててもらうことが考えられます。

相続対策3|相続税の納税資金準備

最後に手当てすべきは、相続人が支払うことになる相続税の納税資金をどう準備するかという問題です。

 

相続人が「身銭を切る」金額をできるだけ抑えてあげる必要があります。

 

特に深刻なのは、相続財産のうち現預金や直ちに換金できる資産の比率が低い場合です。最悪の場合、せっかく相続した財産をお金に換えて、納税資金を準備しなければならなくなります。

 

換金できるならばまだマシなほうで、自社株式の場合は市場で換金することがほぼ不可能です。

 

この問題への対策としては、「相続争いの予防・抑止」のところでお伝えしたのと同様、生命保険の活用が有効です。

 

なお、経営する会社の自社株式については、会社に利益剰余金(内部留保)の金額の範囲内で自社株式を買い取らせる方法が考えられます。

おわりに

相続において最も大事なのは、残された家族が仲良く暮らしていけるようにすることと、相続によって発生する負担を可能な限り取り除いてあげることです。

 

そこで、第一に考えなければならないのは、「相続争いの予防・抑止」です。遺産を公平かつ納得感があるように配分する必要があります。もしも、それが難しければ、遺言を作成しておくことをおすすめします。また、遺留分侵害の可能性があるのであれば、生命保険を活用する方法があります。

 

第二として、相続税自体を抑える「相続税対策(相続税の節税)」を行う必要があります。これについては、不動産の活用、生前贈与の活用、「一時払いの生命保険」の活用が考えられます。

 

そのうえで、相続税がどれくらいかかるかの見当がついたら、第三として、相続税の納税資金の準備を考える必要があります。この場合も、生命保険の活用等が有効です。

 

 

黒瀧 泰介(税理士法人グランサーズ共同代表 公認会計士・税理士)

 

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本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。