「相続税はお金持ちだけの問題で、自分には無縁」。そのように考えている方は少なくありません。しかし、東京23区内、あるいは東京郊外に自宅がある方の場合は要注意です。自宅不動産の評価が想像以上に高額となり、想定外の相続税が課税される場合があります。相続財産の事前の確認の重要性を解説します。

「別にお金持ちじゃないし」…油断が招く相続の大問題

「サラリーマンの父が買った、普通の宅地ですから」

 

「土地があるといっても、田舎ですからね。周りにはなにもないですよ」

 

こんなご相談から始まるものの、実際に路線価や実売価格を調べてみると、非常に高額な不動産であることが判明した…というケースは、近年非常に増えています。東京23区の土地価格はずっと右肩上がりの上昇が続いており、イメージよりずっと高額になっていることがありますし、「郊外」と認識されている東京近郊の土地も、開発が進み、いつの間にか非常に高額になっていた、ということが多々あるのです。

 

土地価格が高額になって困るのは、やはり「相続税」です。親の土地・先祖代々の土地をそのまま維持したいと思っていても、相続税のために売却を迫られる場合もあります。近年では、「土地を維持するだけ」で非常に高額なコストが発生することを、知っておかなければなりません。

 

しかし、納税のために売却を決断しても、また別の難問に突き当たることがあります。販売価格はたいしたことがないのに、国の相続税算出の基準である路線価で算定すると、非常に高額になってしまう。坂や農地と続いていて、開発しなければ宅地にできない。アパートが建っているものの、昔の賃料から見直しをしておらず、収益性が低いまま…といったケースです。

高齢父の自宅不動産…想定外の課税額に相続人蒼白

高齢の父が亡くなり、きょうだい2人での相続が発生したという方の事案で、まさに上記のような問題が浮上しました。ご実家を「単なる郊外の土地」だと思っていたところ、非常に高額な相続税が課されることが判明し、しかも、土地そのものが売却しづらい状況にあると分かったのです。

 

その相談者の方のご実家は、広い敷地に建つ木造家屋で、敷地内には傾斜や段差があり、あたかも小高い丘か、小さな山の上に建っているかのような形状でした。資産の内容は、この自宅不動産と預貯金のみでしたが、不動産は形状のために売却が困難であることから、不動産の相続税評価額よりずっと金額が低い預貯金のほうが、むしろ「使い勝手の良い財産」といえる状況でした。

 

不動産の相続税は、相続税路線価を面積に乗じて算出していきますが、実売価格よりはるかに高額な相続税の試算結果を見て、相談者の方は青ざめました。

 

このように、実売価格に対して相続税路線価の評価のほうが高額な場合、「相続税課税がおかしい!」と主張したうえで、相続税の申告をすることもできるのですが、そのためには、不動産鑑定士による鑑定評価書が必要です。その場合、先に不動産鑑定士の費用を負担しつつ、確証のない状態で相続税申告を行うことになるため、実際に行動へと移すには、なかなかの覚悟と思い切りが必要です。

「納税資金がない!」自宅売却を急ぐも、買い叩かれ…

今回の事案では、相続人である2人とも、実家に住むことはないとのことから、売却に取り組みましたが、上記のとおり、一般的な宅地として売却しづらい要素が多く、買い取ってくれる事業者を探し回ることになりました。

 

郊外都市部の土地であるにもかかわらず、個人間で取引できる一般的な戸建て用地とは状況が異なり、傾斜や段差を宅地にする開発行為ができる事業者でないと取り扱えません。また、開発行為を行うにしろ、数年を要するプロジェクトになりそうなため、買取できる事業者の規模も比較的大きなところに限定されます。

 

最終的には、開発を行う力のある事業者に、妥当な価格設定で買い取ってもらえましたが、相談した事業者のなかには、買い叩くかのごとく、あからさまに低い金額を提示したり、物件の形状を説明しただけで門前払いするところもあるなど、非常に苦戦することになりました。

 

今回は、金融機関に追加融資を受けて先に相続税を支払ったうえで、なんとか無事に売却することができましたが、もし売却がうまくいかなかったり、隣地との権利調整に手間取ったりしたら、追加融資の返済期限が迫るなか、相当大変な事態になっていたと思われます。

「相続対策」が、資産形成の結果を左右する

じつは、この「相続税が高いが、売却しづらい実家」のケースは、都内・郊外で賃貸経営をしている方にも降りかかる問題だといえます。

 

相続した土地で農業を営んでいたけれども、その後、借家経営・アパート経営に切り替えたという方は、しばしば「賃貸物件の土地値が非常に高額になっているが、賃貸経営がうまくいっておらず、土地の値段に比して、アパートのために売却先が限られてしまう」という事態が生じます。

 

「更地のままでは固定資産税が高い」などの理由から賃貸経営を始めたものの、実際に売却を考えたら、更地にしていたほうがずっとましだった…ということが多々生じるわけです。賃貸物件にしてしまうと、土地を手放すときに「オーナーチェンジ物件」として、利回り計算を前提に売却金額を考えざるを得ず、アパート経営から更地化するには、「立ち退き費用+解体費用」が発生してしまうため、アパートを建てているほうが「売却時に不利」という事態が生じることになるのです。

 

この問題から、アパートなどで資産形成をされている方は、相続時の納税資金や、遺産分割の計画、分配のための資金などを準備しておかないと、本来あるはずだった資産が、想定より少なくなってしまうことも起こりえます。またその結果、子どもたちの代で余計な紛争を巻き起こしてしまうことにもなりかねません。これらの点から、相続対策は非常に重要だといえるでしょう。

 

(※守秘義務の関係上、実際の事例から変更している部分があります。)

 

山村 暢彦(山村法律事務所 代表弁護士)

本記事は、株式会社クレディセゾンが運営する『セゾンのくらし大研究』のコラムより、一部編集のうえ転載したものです。