(※本記事で紹介する事例は架空のものです。)
離婚した父が死亡、相続人は3人だけのはずが…
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<事例>
父の葬儀を終えたAのところに、Xと名乗る人物から一本の連絡が入った。
「私にも、お父さんの遺産を相続する権利があります」
Aは耳を疑った。
父は母と熟年離婚した後、歳が近い別の女性と再婚した。父と再婚相手の間に子はなく、再婚相手の女性もすでに亡くなったと聞いている。それなら相続人は、父の子であるAと、Aの弟であるBとC、合わせて3人だけのはずだ。
聞くところによると、Xは父の再婚相手の連れ子らしい。
しかし、連れ子に相続権はないはず。Xは何を根拠に相続権を主張しているのだろうか? Aは不安を覚え、知り合いの弁護士Lに相談してみた。
弁護士Lのすすめにより、Aは父の戸籍謄本を取得した。戸籍謄本を確認すると、なんと父はXと養子縁組をしていたのだ。どうしてそんなことを…。
しかし、父の気持ちもわからなくはない。父にとっては、母との間に築いた家庭以上に、生涯最後まで添い遂げた再婚相手との家庭が大事だったのだ。連れ子に対する思い入れが強くなったこともあり、養子縁組をするに至ったのだろう。
父の遺産分割協議は、実子であるA・B・Cに、養子であるXを加えた4人で行うことになった。実子としての血縁関係にこだわるA・B・Cと、あくまでも法律上の権利を主張するXの主張は平行線をたどり、遺産分割協議はまとまる気配がなかった。
最終的には家庭裁判所における審判手続きに発展し、父の死後、遺産分割が完了するまで3年という長期間を要した。
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連れ子に相続権が発生する条件とは?
亡くなった被相続人の再婚相手の連れ子には、原則として相続権がありません。しかし、被相続人と養子縁組をした場合には、連れ子にも相続権が発生します。
■連れ子は原則として相続権がない
被相続人の子は、欠格事由・廃除・相続放棄によって相続権を失わない限り、相続権を有します。ここで言う「子」とは、被相続人と法律上の親子関係を有する者を指します。
結婚している配偶者との間に生まれた実子は、生まれながらにして当然に被相続人の「子」です。
これに対して、被相続人の再婚相手の連れ子は、たとえ実子同然に育てられたとしても、被相続人の法律上の「子」ではありません。したがって再婚相手の連れ子には、被相続人の遺産を相続する権利がないのが原則です。
■養子縁組をすると「子」になり、相続権が発生する
ただし、再婚相手の連れ子であっても、被相続人の相続権を取得する方法があります。
それは、被相続人との間で「養子縁組」をすることです。養子縁組とは、市役所・区役所・町村役場への届出により、養親と養子の間に法律上の親子関係を発生させる手続きをいいます。
被相続人が養親、連れ子が養子として養子縁組をすれば、その時から2人は法律上の「親子」となります。
養子には、実子と同等の相続権があるため、被相続人が亡くなれば、実子と養子がともに参加して遺産分割を行うことになるのです。
なお、尊属・年長者・嫡出子・すでに養子となっている方を除けば、再婚相手の連れ子に限らず養子とすることができます。
「連れ子がいる相続」の注意点
実子と連れ子がともに相続権を有する場合、遺産分割協議が紛糾するリスクは非常に高いです。ご自身の死後、実子と連れ子が相続についてもめないようにするには、生前の相続対策が重要になります。
■遺言書を作成すべき
連れ子にも遺産を相続させたいのか、それとも実子だけに遺産を相続させたいのか。いずれの場合でも、元気なうちに遺言書を作成することが大切です。
遺言書を作成すれば、遺産の分け方をあらかじめ自分で決められます。実子と連れ子の間の相続割合を指定することも可能です。
また、遺言書によって分け方を指定した遺産は、遺産分割協議の対象から除外されます。あらかじめすべての遺産の分け方を指定すれば、相続トラブルの予防にもつながります。
ご自身の意思を相続に反映させるため、また相続トラブルの発生を未然に防ぐため、早めに遺言書を作成するのが良いでしょう。
■家族と遺産分割について話し合うべき
実子に加えて、養子縁組をしている連れ子がいる場合には、相続トラブルのリスクが強く懸念されます。
この場合、被相続人となる方は、実子と連れ子それぞれとの間で、相続について話をする機会を設けるべきです。事前に双方の希望などを聞いておけば、遺言書を作成する際、遺産の分け方を決めるうえで参考となります。
また、相続人となる実子(または連れ子)の立場でも、将来の相続トラブルのリスクを考慮して、親(または養親)に相続対策の話を切り出してみましょう。
相続トラブルは生前の対策が重要
相続トラブルは、お金持ちの家庭に限らず、幅広い家庭で発生する可能性があります。遺産の分け方に加えて、相続税や相続債務の支払い、不動産の管理など、相続トラブルの原因は至るところに潜んでいます。
特に、相続の関係者に再婚歴があり、複数の家系が相続に絡んでくるようなケースでは、相続トラブルのリスクが高くなります。このような場合には、生前の元気なうちに相続対策を行うべきです。
相続対策にはさまざまな方法があり、家庭ごとに適切な対策は異なります。効果的に相続対策を行うには、財産の状況や家族の関係性、各相続人の希望などを具体的に検討しなければなりません。
どのような相続対策を行うべきかを明らかにするため、家族で相続について話し合う機会を設け、また弁護士・税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
相続手続きの流れや、よくある相続トラブルのパターンに関心を持って知ろうとすることが、相続を円滑に乗り切るための第一歩です。
阿部 由羅(ゆら総合法律事務所 代表弁護士)
1990年11月1日生。東京大学法学部卒業・同法科大学院修了。弁護士登録後、西村あさひ法律事務所入所。不動産ファイナンス(流動化・REITなど)・証券化取引・金融規制等のファイナンス関連業務を専門的に取り扱う。
民法改正・個人情報保護法関連・その他一般企業法務への対応多数。同事務所退職後は、外資系金融機関法務部にて、プライベートバンキング・キャピタルマーケット・ファンド・デリバティブ取引などについてリーガル面からのサポートを担当。弁護士業務と並行して、法律に関する解説記事を各種メディアに寄稿中。埼玉弁護士会所属弁護士。著書:『債権法実務相談』(西村あさひ法律事務所編)(共著)