老後の生活資金確保や住宅購入等のためには、まとまった資金を準備する必要がありますが、十分に資産形成をするために、どのような金融商品を購入したらよいのでしょうか。ニッセイ基礎研究所の熊紫云氏によるレポートです。
資産形成に向いている投資商品とは何か…何に投資をしたら良いか迷うのであれば、iDeCoやつみたてNISAなどを活用すべき (写真はイメージです/PIXTA)

2―投機、ギャンブルと投資

「投機」、「ギャンブル(賭け事)」と「投資」は損をするかもしれない不確実性、つまりリスクがあるが、このレポートでは、それぞれについて参加者全員の利益合計がプラス、マイナス、ゼロ、不明のどれなのかによって資産形成に向くかどうかを見分けることとしたい(図表3)。 

 

【図表3】
【図表3】

 

麻雀のような参加者全員の持ち分合計が一定で利益合計がゼロのゼロサムゲームの場合、または将来の参加者全員の持ち分合計と利益合計が不明、つまり将来の価値がどうなるかわからない場合を「投機」とする。つまり、投機の場合、参加者全員の利益の平均がゼロか不明で、参加者それぞれが期待できる利益もゼロか不明なので、資産形成に向いていない。

 

さらに、宝くじのような参加者全員のパイが必ず小さくなるマイナスサムゲームは資産形成に最も向いていない。参加者全員の持ち分合計が減っていき、利益合計がマイナスになるからである。ギャンブルであるパチンコ、競馬、競艇等は、宝くじと同じマイナスサムゲームである。「ギャンブル」や「宝くじ」はあくまで娯楽として楽しむものであり、長期の資産形成には向いていない。

 

食事券キャンペーンはプラスサムゲームではあるが、短期間で終了してしまう。もし、長期的かつ継続的にお得になるプラスサムゲームがあれば、参加者全員の持ち分合計が今後増えていくと期待できるため、長期的に利益合計がプラスになり、参加者それぞれが期待できる利益もプラスであり、資産形成に向いている。結論から言うと、長期の「投資」はプラスサムゲームと考えて良いため、普通の人にとっては、長期の資産形成のためには「投資」を有効活用することが必要であり望ましい。

 

では、資産形成に向いている「投資」とは具体的に何だろうか。これからの章では、比較的有名で代表的な投資商品を取り上げて、それぞれが資産形成に向いている投資商品である理由について説明していきたい。

 

3―資産形成に向いている投資商品とは何か

本章では、投資商品の代表例である債券や株式や不動産を簡単に紹介し、それぞれについて資産形成に向いている理由を説明してみたい。

尚、株式、債券などの証券商品は投資手法によって、長期投資と短期売買に分けることができるが、この章では長期投資を前提に説明していきたい。ちなみに筆者は投資商品であっても短期売買の取引をするとゼロサムゲームとなり「投機」に該当すると考えている。

 

【債券】

 

日本で発行されている債券の大部分は、定期的に投資家が利息というインカムを受け取る仕組みがある。ここでは一番シンプルな固定利付債の取引を具体例として紹介する(図表4)

 

【図表4】
【図表4】

 

Aさんは満期10年、毎年の利息が1万円、販売価格と償還価格がともに100万円である債券を購入した。3年間保有していたAさんは、利息合計3万円を受け取った。3年後にBさんはAさんから時価95万円で債券を購入した。

 

Bさんは1年間保有し利息合計1万円を受け取り、Cさんに時価93万円で債券を売却した。Cさんは2年間保有し利息合計2万円を受け取り、Dさんに時価97万円で売却した。Dさんは保有期間中に、利息合計4万円を受け取り、満期になるまで保有し続けた。10年後の満期償還時に、Dさんは償還額100万円を受け取った。

 

すると10年後の各投資家の損益状況は、Aさんは売却損▲5万円、利息受取+3万円で▲2万円、Bさんは売却損▲2万円、利息受取+1万円で▲1万円、Cさんは売却益+4万円、利息受取+2万円で+6万円、Dさんは償還益+3万円、利息受取+4万円で+7万円である。

 

各投資家の損益が様々だが、投資家全員の利益合計が+10万円でプラスである。この10万円は、インカムに相当する累計利息受取の10万円である。ちなみに、このケースでは債券の売買取引はゼロサムゲームであり、投資家全員の売買(償還)損益の合計は0万円である。

 

債券にはあらかじめ定められた利息というインカムをもらえる仕組みがあるためプラスサムゲームとなる。会社が倒産しない限り、今後の投資家全員の持ち分合計がインカム分だけ増えていき、投資家全員の利益合計がプラスであることが合理的に期待できるため、債券の長期保有は「投資」であり、長期の資産形成に向いている。