高齢者の2人に1人は「収入のすべてが公的年金」。さらに将来を見据えた貯蓄もない、という状態だと、不測の事態に対応することができません。そのような場合、有力な選択肢となる年金制度が、今年の4月からスタートします。みていきましょう。
年金月14万円だが「だめだ、お金がない…」多額の借金覚悟の71歳男性、ピンチを救う「繰下げ申出みなし制度」とは (※写真はイメージです/PIXTA)

高齢者の急な出費に新たな選択肢…2023年4月からスタートする「繰下げ申出みなし制度」

高齢者の5人に1人は将来への備えがなく、破綻リスクが高い状態。そこで病気や怪我、住まいのリフォーム、冠婚葬祭……急な出費が必要となった時に対応できるでしょうか。

 

――だめだ、お金がない

 

借金するほか方法がないという状況のとき、知っておきたい制度が、2023年4月からスタートします。それは「繰下げ申出みなし制度」。そもそも繰り下げして年金をもらおうとしていたとき、それまでもらってこなかった年金は最大5年さかのぼり一括受給することができました。それが2023年4月からは、さらにお得になるのです。

 

年金は原則65歳で受給権が発生しますが、希望により、年金をもらう時期を遅くすることができます。これが「年金の繰り下げ」。年金の受給を1ヵ月遅らせるごとに、0.7%ずつ受給額が増えていくというメリットがあります。これまでは70歳まで繰り下げることができましたが、2022年4月からは75歳まで繰り下げることができるようになりました。つまり、最大84%の増額率で年金を受け取ることができる、ということです。

 

では年金を一括受給する場合を考えてみましょう。たとえば71歳の男性、急病による入院で、まとまったお金が必要になったとしましょう。

 

2022年までの仕組みであれば、0.7×72で50.4%額の年金がもらえます。そして年金を一括受給する場合は過去5年分の年金を手にできるものの、以降は65歳時点の年金額となる仕組みでした。

 

それが2023年4月以降の仕組みでは、5年前に繰り下げ受給の申請をしていたと“みなす”ということ。つまり71歳で一括受給とした場合、0.7×12=8.4%増額となった年金5年分を手にでき、さらに8.4%増額になった年金が一生続くということになります。

 

ただしこの新制度が適用されるのは、1952年4月2日以降に生まれた人(または2017年4月1日以降に受給権が発生した人)で、2023年4月1日以降に年金の請求を行う人。現時点で71歳の人は適用外なので、注意が必要です。

 

これまで老後、不測の事態でまとまったお金が必要になったとき、誰もが対象になるわけではありませんが、年金の一括請求はひとつの選択肢でした。ただ年金の増額率がゼロになってしまうのが、少々考えものでした。それが4月以降は幾分、解消されることになり、より使い勝手のいい制度へと変更になります。

 

ただし、前出の例であれば、突発的な出費も貯蓄で対応し、制度を利用せずに年金受給を開始すれば、以降は50.4%増額の年金を受け取れることになります。一括受給で対応するとなれば、過去5年分の年金は受け取れるものの、以降は8.4%増額の年金となります。どちらが損か、得か、の話ではありませんが、短絡的な判断は後悔のもとになるでしょう。