どの家庭にも程度は違えど地獄はあるものです。一見平穏そうにみえる家庭も、蓋を開けてみれば驚きの事実が露見するかもしれません。今回は、長岡FP事務所代表の長岡理知氏のもとへ相談があった、身に覚えなく多重債務者となっていたSさんの家庭の事例をみていきます。
スマホ「15万円」の分割払いできず…42歳・年収750万円の営業マン、身に覚えなく「多重債務者」となっていた驚愕の真相 (※写真はイメージです/PIXTA)

まずはお金の問題を解決

なにはともあれ、Sさんはお金の問題を解決しなければなりません。クレジットカードは強制解約されているため450万円ほどの借金は一括返済が必要です。Sさんは妻が貯蓄を1円もしていないことに気づいていなく、貯金から返済するのは不可能です。こちらはSさんの兄に借りることにしました。兄夫婦はどちらも大学病院の医師をしているためお金に余裕があり、快く貸してくれることになりました。これで借金はリセットできます。

 

しかし問題はこれからのことです。

 

・またクレジットカードは作れるか

・持ち家を買おうと思っているがいつできそうか

 

一般論としてクレジットカードは数年のあいだは作れないと思ったほうがよいでしょう。ただし、メガバンクなどでデビッドカードを発行してもらえば、当面のあいだはクレジットカードの代わりとして使えます。数年経過したら、独自審査がある(と思われる)クレジットカードの申し込みを始めてもいいかもしれません。5万円~10万円という小さな枠で審査が通る可能性があります。

 

問題は住宅ローンです。こちらは信用情報から履歴が消えるまで数年間は不可能でしょう。Sさんの年齢から考えると、40代後半でやっと借りられるかどうかというところです。確実なことは言えませんが、いまやれることは貯蓄をして自己資金を貯めておくことです。将来の借入額を少なくすれば、可能性は少しですが見えてきます。幸いSさんは収入が高く、これからも昇給が期待できます。弊社が定期的にアドバイスしながらこの数年で家計を整えていくことにしました。

罪悪感に苛まれるSさん

妻が勝手に借金をした場合、Sさんが返済する義務はあるのか? という疑問があります。実際のところは、

 

・Sさんが契約していたカードは返済義務がある

・妻が勝手に契約したカードについてはSさんに返済義務がない

・妻に損害賠償を請求することもできる

 

といえます。ところが、Sさんとしては妻と正論で揉めるつもりはないということなので、このポイントは無視することにしました。弊社も正論や正義でジャッジすることには反対です。夫婦関係を壊していいことはありません。

 

Sさんはこれまで仕事に忙しく、家庭を顧みなかったことをひどく反省しているようでした。娘さんがひきこもりになったことも、妻の行動が異常なのも、自分のせいではないかと罪悪感に苛まれてしまいました。娘さんとのコミュニケーション不全についてもかなり苦しんでいるようです。

 

しかし平穏に見えるどの家庭でも、多かれ少なかれ地獄のような状況はあるものです、と弊社FPが個人的な体験を踏まえて言うと、少し安心したようでした。弊社FPの家庭環境にもやはり多少の困難は存在し、同じように苦しんで生きています。大切なのは正論や正義ではなく、どんな形であっても家族であることを諦めないことではないでしょうか。

 

妻を責めることも、妻に今回の問題の話題を出すことも、もうやめてはいかがでしょうか、と弊社からアドバイスしました。揉めて苦しむのは娘さんです。妻が家計をすべて管理することをやめてもらうだけで十分です。その場合も被害妄想を持たないように、「これから家を買う予定だからお金のことは僕がやるよ」というような言い方をすればいいと思います。

新しい家族の形を模索しながら、なんとか未来へ

妻は能力を超えた「お金の管理」や「整理整頓」という役割から離れたほうがいいと思われます。できる範囲内のことだけをやってもらい、Sさんはそれに感謝を伝えることです。そのことで家計の安定はもちろん、娘さんとの依存は緩和されていくかもしれません。家庭が安全な居場所であると、まずは妻がそう思えることが先決です。Sさんにとってはきついことかもしれませんが、妻よりも少し「大人」になって状況を俯瞰したほうがいいと思います。Sさんにとって孤独な状況はずっと続くでしょう。お金という実務はどうにでもなりますが、今後家庭に不穏な空気が流れたら新たな問題が生まれるだけです。何度も言いますが娘さんがかわいそうなことになります。

 

話をお聞きしているとSさんは誠実な性格をしています。妻の問題に対して理屈で正論を言ったり、離婚だなどと騒ぐこともしません。なんとか家族を未来につなげたいというポジティブな希望も持っています。これから弊社FPとともに、お金と家族について定期的に話し合いをすることにしました。

 

多くの家庭に潜む問題は、お金という形に見えて、実は人間関係の問題であったりします。お金のトラブルは冷静に解決できます。それよりももっと根本にあるものに目を向けるべきなのです。

 

 

長岡 理知

長岡FP事務所

代表