どの家庭にも程度は違えど地獄はあるものです。一見平穏そうにみえる家庭も、蓋を開けてみれば驚きの事実が露見するかもしれません。今回は、長岡FP事務所代表の長岡理知氏のもとへ相談があった、身に覚えなく多重債務者となっていたSさんの家庭の事例をみていきます。
スマホ「15万円」の分割払いできず…42歳・年収750万円の営業マン、身に覚えなく「多重債務者」となっていた驚愕の真相 (※写真はイメージです/PIXTA)

携帯ショップでスマホの分割契約に落ちてしまったSさん

Sさんは現在42歳。食品メーカーで営業マンをしています。新卒から勤め、現在の年収は750万円。昇進も順調です。3歳年上の奥さん(専業主婦)と、17歳の娘さんと3人家族で築25年の賃貸マンションで暮らしています。

 

そのSさん、ある日不可解な出来事に遭遇しました。5年間使用したスマホの調子が悪くなり、機種変更しようと携帯ショップを訪れたときのことです。15万円する最新のスマホを分割契約しようと申込んだところ、しばらくして店員がこう告げました。「お客様は分割契約ができません」つまり15万円のローンの審査に落ちたということです。

 

日を改めて一括払いで機種変更することにし、その日は帰りました。家計は妻が管理しているため貯蓄から15万円を出してもらえばいいとSさんは思ったのです。ローンに落ちたことはさほど気にしませんでした。

 

帰宅後、「僕って信用がないんだなあ、携帯ショップでローンを断られてしまったよ」とSさんは妻に冗談めかしていいました。

 

「ああ、そう……」妻は特に笑いもせず、目を合わせませんでした。

 

「一括で払えば機種変更できるらしいから、あとで15万円を貯金から下ろしておいてくれないか」

 

妻は小さな声でいいます。「……あとでね。今週は忙しいから」

 

しかし妻は15万円をSさんに渡すことはありませんでした。Sさんは、5年で機種変更するなど妻は快く思っていないからお金をくれないのだろうと、ただそう思うだけでした。

 

しかし事態の深刻さに気付いたのはその半年後のこと。Sさんは長年の夢だった戸建ての家を手に入れたいと思ったのです。普通のサラリーマンなので贅沢なことはいわない。通勤に少し時間がかかったとしても郊外に戸建ての家が欲しい。できれば建物は延べ床30坪くらい。娘に広い部屋を持たせてあげたい。いまの高い家賃とほぼ変わらない返済額ならいけるのではないか、そう考えました。

 

住宅メーカーの展示場を訪れ、営業マンからひととおり説明を受けたあとでこう言われました。「土地を買い付けるにも、建物の設計をするにも、まずは銀行の審査を先にやることをお勧めします。どのくらいの金額が融資してもらえるのかを調べてから、予算を決めていきましょう。まあ、Sさんのお勤め先と年収であれば心配はないと思います」事前審査の用紙を記入し源泉徴収票を添付して銀行に提出しました。

 

その1週間後、営業マンから電話があり気まずそうにこう言いました。

 

「Sさん、銀行の審査がゼロ回答でした。つまりその、融資が断れてしまったんです」

 

Sさんはスマホの分割契約も断れたことを忘れていました。

 

「えっ、なんでなんだろう。借金はなにもないはずなのですが……」Sさんがそう言うと、営業マンは信用情報の開示を受けてみたほうがいいと教えてくれました。

 

信用情報機関に登録されている情報を見れば、もしかしたら昔の借金を返済していなかったなどの事情がわかるかもしれません。Sさんに思い当たる節はまったくありません。クレジットカードですらほとんど使わず、タンスのなかに保管したままです。自動車も持っていません。

 

営業マンから信用情報機関のURLをもらい、開示請求をすることにしました。1,000円程度で開示してもらえるようです。無駄な出費だと思いつつも手続きを進めました。後日、開示書類は郵送で送られてきました。随分と分厚い封筒です。軽い気持ちでなかを開いてみると、Sさんは驚いてしまいました。一瞬なにが書いてあるのか理解できませんでしたが、よく読みこんでみると……どうやらSさんは深刻な多重債務者であるようでした。