
建物を新たに建築したり購入したりする際に、適切な会計処理で経費計上するためには、固定資産の減価償却の仕組みを正しく理解しておかなければなりません。本記事では、建物の減価償却について、基本的な仕組み、「耐用年数」等の用語や計算方法、注意点、一部で「節税」に役立つといわれる方法等、重要なポイントを、税理士法人グランサーズの共同代表である公認会計士・税理士 黒瀧泰介氏がわかりやすく解説します。
1. 建物の減価償却の基本的なしくみ

1.1. 減価償却とは
減価償却とは、会計ルール上、建物をはじめとする固定資産を購入した場合に、その年にまとめて経費とするのではなく、複数年に分けて経費計上していくという考え方です。
固定資産には、建物の他に、車や機械、大型備品などの「有形固定資産」や、ソフトウェアなどの「無形固定資産」があります。定められた対象の中で、購入金額が10万円以上のものが「固定資産」と扱われます。
固定資産は事業に使用するとともに価値が物理的に減少していくと考え、その価値が減少分を1年ごとに費用計上していくのです。
減価償却の期間、すなわち何年に分けて費用計上していくかは、資産の種類ごとに定められています。「耐用年数」といいます。
では、減価償却はなぜ必要なのでしょうか。
一言でいうと、毎年の利益を正しく表すことができるようにするためです。
減価償却の対象になるものは、建物のように、ある程度高額で、長い期間使用するものがほとんどです。そのため、購入年にまとめて経費に算入すると、その1年だけ利益が急減し、時には赤字化してしまうこともあります。
また、購入の翌年以降に、本来出せる以上の利益を出しているように見えてしまうこともあります。
そこで、あらかじめ想定される使用年数を税法上「耐用年数」として定めておくことで、上述した不都合を回避し、事業利益を正しく管理していくための仕組みが減価償却なのです。
1.2. 建物の減価償却の法定耐用年数
先述のように、固定資産にはそれぞれ耐用年数が定められています。建物の場合は、「構造」「用途」によって、細かく分けられています。
考え方には一定の方向性がありますので、説明します。
1.2.1.「構造」による違い
すなわち、まず、「構造」が頑丈であれば、同じ用途であっても、耐用年数が長く設定されています。たとえば、「事務所用建物」であれば構造ごとに以下の通り定められています。
【事務所用建物の「構造別」法定耐用年数】
- 木造・合成樹脂造:24年
- 木骨モルタル造:20年
- 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造:50年
- れんが造・石造・ブロック造:41年
- 金属造:骨格材の肉厚に応じ22年(3㎜以下)、30年(3㎜超~4㎜以下)、38年(4㎜超)
1.2.2.「用途」による違い
また、「用途」が異なると、同じ構造であっても、利用頻度が高いほど耐用年数が短く設定されています。たとえば「木造」であれば、用途ごとに以下の通り定められています。
【木造建物の「用途別」法定耐用年数】
- 事務所用:24年
- 店舗・住宅用:22年
- 飲食店用:20年
- 旅館用・ホテル用・病院用・車庫用:17年
- 公衆浴場用:12年
- 工場用・倉庫用(一般用):15年
法定耐用年数の詳細については、国税庁HP「主な減価償却資産の耐用年数表」をご覧ください。
1.3. 土地の減価償却?
建物の減価償却を考えるうえで、注意しなければならないのが土地の扱いです。結論からいえば、土地は減価償却の対象にはなりません。
固定資産は、時間経過とともに価値が物理的に減少していくものに対して適用されます。建物は利用し続けることで徐々に劣化していきますが、土地は時間が経つことで価値が下がることがないので、減価償却の対象にはならないのです。
土地と建物は同時に取引することが多いため、減価償却の計算においては十分に気を付けてください。
2. 建物の取得価額の計算方法

2.1. 建物の取得価額に含まれる費用
建物の減価償却をするためには、建物の正しい取得価額を知らなければなりません。取得価額には、「建物の購入対価」または「建築にかかった費用」と、その他の費用があります。
「建物の購入対価」「建築にかかった費用」は、工事請負契約書等に「建物の金額」と記載されている額をさします。
その他に取得価額に含めることができる主な費用は以下の通りです。
- 購入時の仲介手数料
- 登録免許税・不動産取得税などの税金
- 契約書の印紙代
- 整地費や、古屋建物の取り壊し費用
2.2. 建物と土地の内訳が不明の場合
契約書を紛失した場合や、そもそも売買契約書に土地と建物の内訳が記載されていない場合もあります。その際は、減価償却の対象になる建物と、対象にならない土地で、算出し直さなければなりません。
具体的な算出方法を3種類紹介します。
2.2.1. 消費税額から算出する
売買契約書が手元にある場合は、消費税から建物価格を計算することも可能です。なぜなら、消費税は建物にかかりますが、土地にはかからないからです。
たとえば、売買代金総額 5,000万円、消費税220万円(消費税率10%)の場合、建物代金は、220万円 ÷10%(消費税率) = 2,200万円 となります。
2.2.2. 固定資産税評価額で按分する
売買契約書が手元にない場合は、固定資産税の評価額から土地と建物の割合を按分する計算方法もあります。
評価額は、固定資産税の課税明細書に記載されているほか、役所で評価証明書を取得することも可能です。
2.2.3. 建物の標準的な建築価額から算出する
国税庁HPにおいて、「建物の標準的な建築価額表」が提示されています。これは、建物の建築年と構造をもとに、1㎡あたりの標準的な建築価額を示したものです。この表をもとに建物代金を算出することも可能です。
たとえば、「昭和59年建築 木造住宅(90㎡)」であれば、標準的な建築価額は「10.28万円/㎡」なので、建物代金は以下の通りです。
3. 建物の減価償却の計算方法

3.1.「定額法」と「定率法」
減価償却の計算方法には、「定額法」と「定率法」の2つがあります。
3.1.1. 定額法
「定額法」は、減価償却費を耐用年数で均等割りする形で、毎年同額ずつ経費として計上していく方法です。ただし、実際の計算では、耐用年数では割り切れないことが大半です。したがって、建物の取得価格に「償却率」をかけ、端数を減価償却の最終年で調整するという形をとります。
3.1.2. 定率法
これに対し、「定率法」は、毎年同じ償却率を、その年の未償却残高に対してかけた額を経費として計上していく方法です。
未償却残高が多く残っている(=取得年に近い)ほど、減価償却額が大きくなります。
ただし、この計算方法では、理論上いつまでも減価償却が終わらないことになってしまいます。そこで、「保証償却額」が設定されており、定率法で算出した額がこの保証償却額を下回ると、以降は毎年、残額を均等に振り分けて計上する形を取ります。
3.2. 建物の減価償却は「定額法」が基本
建物の減価償却は、建物本体と「建物附属設備」に分けて計算をします。建物附属設備というのは、ガス設備や給排水設備、自動ドアなど建物本体に固着した設備をさします。
かつては、建物附属設備の減価償却は、定額法と定率法のどちらかを選択することができました。しかし、2016年4月1日以降に取得した建物附属設備については定額法のみの適用と変更されました。
なお、建物本体は、建物附属設備の変更以前から一貫して「定額法」を義務付けられています。
3.3. 定額法を使った建物の減価償却の計算例
定額法を使った計算の一例をお見せします。なお、わかりやすくするため、「建物付属設備」はないものとして、建物のみについて試算します。
以下の事例で計算します。
- 取得価額:2,000万円
- 法定耐用年数:24年
- 定額法償却率:0.042
このケースにおいて、各年度の減価償却費は以下の通りです。
- 1年目~23年目:2,000万円×0.042=84万円
- 24年目:2,000万円-(84万 × 23)-1円=679,999円
24年間で減価償却するうち、23年目までは毎年同じ「84万円」を減価償却として計上します。これに対し、24年目も「84万円」を計上してしまうと取得価額を超えてしまうため、最終年は、取得価額から、それまで減価償却してきた額を差し引いて算出します。
また、「-1円」というのは、会計帳簿をつける便宜のための処理です。どういうことかというと、法定耐用年数を超えても保有している場合、備忘価格として資産価値を1円だけ残しておくため、最後に1円を引いて、最終年の減価償却額とします。
3.4.「2007年以前」に建物を取得した場合は注意が必要
建物の減価償却を計算するうえで、2007年に実施された税制改定には注意が必要です。
本記事では詳細には立ち入りませんが、2007年3月31日以前に取得された不動産の場合、「旧定額法」が適用されるため、「計算式」及び「償却率」が現在のものとは異なります。
改正以前の建物の減価償却を計算する必要がある場合は、国税庁HP「旧定額法と旧定率法による減価償却」を参照してください。
4. 中古建物の減価償却

ここまでは主に新築のケースについてお伝えしてきましたが、最後に、中古建物を取得した際の減価償却について説明します。
中古建物の減価償却は、主に以下の2通りのパターンに分けて考えます。
1. 事業用の中古建物を取得した場合
2. 居住用等の建物を事業用に転用した場合
4.1. 事業用の中古建物を取得した場合の減価償却
4.1.1. 中古建物の耐用年数は「法定耐用年数」に即して決まる
まず、もともと事業用として使用されていた中古建物を取得した場合の減価償却の方法について解説します。
この場合はそれほど複雑ではありません。なぜなら、中古の事業用建物の耐用年数は、新築の事業用建物の法定耐用年数に即して決まっているからです。
中古の事業用建物の耐用年数を算出できれば、あとは取得年月日に合わせて、「定額法」または「旧定額法」の計算式に当てはめれば問題ありません。
本項では、中古建物の耐用年数の計算方法について、一般的に使用する「簡便法」という計算式を紹介します。
なお、建物を使用するために「取得価額の50%を超える資本的支出」を行っている場合は、簡便法が使用できません。「資本的支出」とは、建物の使用可能期間を延長させるためや、建物の耐久性を増すため、資産価値を高めるための費用をさします。つまり、耐用年数を伸ばすためのことをした、とみなされる場合は、通常の計算方法は適用されないという仕組みになっています。
以下、「築年数が法定耐用年数を経過していない建物」と、「築年数が法定耐用年数を経過した建物」に分けて説明します。
【築年数が法定耐用年数を経過していない建物】
耐用年数=(法定耐用年数 – 築年数)+築年数×0.2
例)木造・飲食店利用(法定耐用年数20年)、経過年数:15年
(20年–15年)+15年×0.2=8年
事業用の中古建物が法定耐用年数を経過していない場合、築年数から法定耐用年数を差し引き、「経過した耐用年数の20%を耐用年数として加算する」と考えてください。
【築年数が法定耐用年数を経過した建物】
耐用年数=法定耐用年数×0.2
例)木造・飲食店利用(法定耐用年数20年)、経過年数:25年
20年×0.2=4年
築年数が法定耐用年数の全部を経過している場合、築年数から法定耐用年数を差し引いた額が「マイナス」になります。その場合は単純に「法定耐用年数の20%」を耐用年数とします。
4.1.2.「端数」が出た場合の処理
なお、計算結果の1年未満は「切り捨て」、計算結果が2年未満になる場合は、一律に耐用年数を2年とすると決められています。
4.1.3. 築古木造建物を購入すると「節税」になる?
「節税」の方法として、不動産投資で築古物件を購入して減価償却を行う方法が紹介されることがあります。
特にメリットが大きいとして推奨されるのは「木造・22年超の築古物件」です。なぜなら、減価償却期間が4年で、単年度に多額の減価償却費を計上できるからです。
詳しくは「不動産投資が節税になるしくみ|対象となる物件の選び方とメリット、注意点」をご覧ください。
4.2. 居住用等の建物を事業用に転用した場合の減価償却
やや計算が複雑になるのは、もともと居住用等の非事業用の建物を、事業用に転用した場合です。
なぜなら、事業用建物とそれ以外の建物とでは、もともと、法定耐用年数が異なるからです。
耐用年数の計算における基本的な考え方は事業用の場合と同じですが、事前に、非事業用だった期間分の減価償却費の相当額を計算しなければなりません。
計算は以下の2段階で行われます。
【第1段階】非事業用だった期間分の減価償却相当額の計算
【第2段階】事業用に転用した後の減価償却費の計算
「【第2段階】事業用に転用した後の減価償却費の計算」は、基本的には事業用中古建物を取得した時と同じですが、使用する値に注意が必要です。
以下の例で計算します。
- 建物:2016年1月に完成
- 取得:2019年3月に住居用として購入(木造/法定耐用年数22年)
- 取得価額:2,000万円
- 転用時期:2022年1月から事業用に転用
4.2.1.【第1段階】未償却残高相当額の計算
- 耐用年数:22年 × 1.5(※1)=33年
- 償却率:0.031(※2)
- 非業務期間:2019年3月~2022年1月⇒2年(※3)
↓
- 非事業期間償却額:2,000万円×0.9×0.031×2年 =111.6万円(※4)
- 未償却残高:2,000万円–111.6万円=1888.4万円
※1:非業務期間の耐用年数は、法定耐用年数の1.5倍として計算
※2:取得日に関わらず「旧定額法」を適用
※3:計算上は2年10カ月だが、1年未満は切り捨て
※4:非業務の減価償却額の算出は、旧定額法を使用(取得価額×0.9×旧定額法の償却率)
4.2.2.【第2段階】事業用に転用した後の減価償却費の算出
- 経過年数:6年(※5)
- 耐用年数:(22年 – 6年)∔ 6年×0.2=17.2年⇒17年(※6)
- 償却率:0.059(※7)
↓
- 1年目~16年目:2,000万円×0.059=118万円(※8)
- 17年目:1888.4万円-(118万円×16年)-1円=3,999円
※5:正確には「6年1カ月」だが1年未満は切り捨て
※6:1年未満は切り捨て
※7:減価償却の計算は、取得日に合わせるため、今回は定額法を適用
※8:償却率を使った計算には、未償却残高ではなく、当初取得価額を使用
まとめ

建物の減価償却においては、「構造」「用途」によって「法定耐用年数」が詳細に定められています。また、計算方法も「定額法」のみが認められています。
減価償却を行うにあたっては建物の取得価額を確認しなければなりません。その際、建物の価格が不明な場合には、消費税額、固定資産税評価額、標準的な建築価額から算出する方法があります。
中古建物については、法定耐用年数を基準として、それより短い期間で償却できることになっています。そのことを利用して、特に木造の築古の賃貸物件を4年で償却する「節税」スキームが利用されることがあります。
なお、もともと居住用等の非事業用だった中古建物を取得した場合には、非事業用だった期間分の減価償却費の相当額を考慮に入れて処理しなければなりません。
このように、建物の減価償却には、他の減価償却資産にない特徴があります。本記事で解説した事項を理解して、正確に処理する必要があります。