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自動車の減価償却の計算方法には、特有のルールがあります。本記事では、大型トラック運転手など運送業界で働いた経験をもつ公認会計士・税理士の古谷洋二郎氏(古谷洋二郎公認会計士事務所)が、自動車の減価償却についてわかりやすく解説します。

目次
1. 自動車の減価償却のしくみ
1.1. 減価償却とは
1.2. リース車両でも減価償却が必要なケースがある
1.3. 個人事業主が自動車を減価償却する場合に必要な処理
2. 自動車の減価償却の計算方法のポイント
ポイント①. 減価償却の計算方法には「定額法」と「定率法」がある
ポイント②. 法人は定率法、個人事業主は定額法が「原則」
ポイント➂. 計算は「月割り」で行う
ポイント④. 決算対策をするなら「期首」に購入すべき理由
3. 自動車の「取得価額」の計算方法
3.1. 取得価額に含まれる費用
3.2. 取得価額に含めなくてよい費用
3.3. 取得価額に含まれない費用
3.4. 資産計上される費用
4. 自動車(新車)の減価償却の法定耐用年数
4.1. 一般用
4.2. 運送事業用・貸自動車業・自動車教習所用
4.3. 自動車(新車)の減価償却の計算シミュレーション
5. 中古車の耐用年数の計算方法
5.1. 法定耐用年数を過ぎていない中古車|4年落ちの例
5.2. 法定耐用年数を過ぎた中古車|10年落ちの例
5.3.「3年10ヵ月落ち以上」はすべて耐用年数2年
6. 減価償却期間中に車を「買い替え」した場合の問題
7.【参考】トレーラーハウス投資による節税とは
まとめ

1. 自動車の減価償却のしくみ

1. 自動車の減価償却のしくみ
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まず、自動車の減価償却のしくみについて概要を説明します。そもそも減価償却とは何か、どういう場合に必要となるかを明らかにします。また、個人事業主に特有の留意点についてもお伝えします。

 

1.1. 減価償却とは

減価償却とは、事業用資産の購入代金(取得価額)を、複数年度にわたって分割して費用計上することです。

 

自動車も事業用資産なので、減価償却の処理を行う必要があります。

 

事業用資産を使用することにより、複数年度にわたって収益が上がっていきます。それと引き換えに、資産価値が目減りしていきます。したがって、購入時に一括で費用に計上するより、目減りする毎に費用にするほうが実態に合います。

 

そこで、定められたルールが、減価償却です。減価償却費の額は、「取得価額」「償却期間(法定耐用年数)」「償却方法」によって決まります。

 

1.2. リース車両でも減価償却が必要なケースがある

自動車を「リース契約」で使用する場合、減価償却が必要になることがあります。本記事では詳細には立ち入りませんが、概要のみ説明します。

 

自動車のリースには、「オペレーティングリース」と「ファイナンスリース」があります。

 

オペレーティングリースは、リース期間が終わったら自動車を返却する義務を負うふつうの賃貸借契約です。最初から最後まで所有権がないので、減価償却は問題になりません。

 

これに対し、ファイナンスリースは、リース期間が終わったら所有権を手に入れることができるので、実質は分割払い購入です。

 

ファイナンスリースの場合、この実質をとらえ、所定の要件をみたせば、減価償却の処理が必要となります。

 

1.3. 個人事業主が自動車を減価償却する場合に必要な処理

個人事業主の場合、自家用車を事業用と兼用しているケースがあります。この場合には、事業用で使用している割合を明確に示せば、減価償却の処理を行うことが認められています。

 

これを「家事按分(あんぶん)」といいます。

 

家事按分のためには、事業で使用した割合について証明する必要があります。根拠資料として、事業で自動車を使ったことを示す記録(使用日、目的地、走行距離等)を残しておくことをおすすめします。

 

2. 自動車の減価償却の計算方法のポイント

2. 自動車の減価償却の計算方法のポイント
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自動車の減価償却の計算方法は2つあります、それぞれの異なる中身と、共通するルールについて、お伝えします。

 

ポイント①. 減価償却の計算方法には「定額法」と「定率法」がある

自動車の減価償却の計算は、「取得価額」(購入代金額等)と「償却率」を使って行います。計算方法には「定額法」と「定率法」の2つの異なる方法があります。また、「償却率」もそれぞれで異なります。

 

このうち、好まれるのは「定率法」です。早期に大きな額を償却できるという特徴があるからです。

 

以下、それぞれの方法について、しくみがわかりやすい「定額法」から順番に解説します。

 

・定額法

定額法は、年度ごとに一定額を減価償却する方法です。定額法の計算式は以下の通りです。

 

減価償却費=資産の購入代金 ÷ 償却期間(耐用年数)

 

定額法による償却率は、以下の通りです。

 

1÷耐用年数(小数点以下第4位を切り上げ)

 

要注意なのは、小数点以下第4位は「四捨五入」ではなく「切り上げ」しなければならないことです。

 

たとえば、償却期間が5年であれば「0.2」、6年であれば計算結果は「0.1666…」ですが、小数点以下第4位を切り上げて「0.167」となります。

 

定額法は、資産の購入費用を各期に均等に割り振るので、計算がシンプルという特徴があります。

 

・定率法

「定率法」は、毎期、「同じ率」の金額を減価償却する方法です。初年度に多く減価償却でき、年が経つにつれ減価償却する額が少なくなっていきます。

 

したがって、初年度に大きな額を費用計上したい場合は、定率法のほうが定額法よりも有利です。

 

定率法の計算式は以下の通りです。

 

減価償却費=期首の残存価額(未償却残高)×償却率

 

そして、償却率は以下の通りです。

 

定額法の償却率×2

 

ただし、定率法だけだと、期間内に償却しきることができません。そこで、「償却保証額」という数値を使います。

 

定率法で算出された額が「償却保証額」を下回ったら、それ以降は残りの年度に均等に配分して計上します。

 

償却保証額は「取得価額×保証率」で算出されます。保証率は耐用年数に応じて決まっており、国税庁HPで確認することができます。

 

ポイント②. 法人は定率法、個人事業主は定額法が「原則」

自動車の減価償却については、法人と個人事業主とで、原則的な償却方法が異なります。以下の通りです。

 

  • 法人:定率法
  • 個人事業主:定額法

 

ただし、これはあくまでも「原則」なので、税務署に届出をすれば、異なる方法を選ぶことができます。

 

たとえば、定率法を採用したい場合、法人は届出不要ですが、個人事業主であれば事前に届出が必要だということです。

 

この届出は、事業年度の前日までに税務署に提出する必要があります。開業初年度の場合は、確定申告書の提出期限(個人事業主は翌年の3月15日)までに税務署に提出すればよいことになっています。

 

届出の後に減価償却の計算方法を変更することはできます。ただし、一度変更すると2年間は変更できません。

 

ポイント➂. 計算は「月割り」で行う

定額法も定率法も、減価償却の計算は「月割り」で行われます。事業供用日(自動車を事業で利用し始めた日)が事業年度の途中であれば、月割で計算しなければなりません。

 

1ヵ月未満の端数は「1ヵ月」とカウントします。たとえば、利用開始日が「12月1日」でも「12月31日」でも「12月から」とカウントします。

 

したがって、たとえば、「税金対策」を目的として期末に駆け込み的に購入したとしても、その期の減価償却費として計上できるのは1ヵ月分だけです。

 

ポイント④. 決算対策をするなら「期首」に購入すべき理由

よくいわれる決算対策(税金対策)として、「高級外車を購入して決算対策をする」というものがあります。

 

しかし、前述のように、期末にあわてて自動車を購入してもせいぜい1ヵ月分しか減価償却費を計上できないので、おすすめできません。

 

「決算対策」で車を購入するのであれば、できるだけ、事業年度の最初の月にすることをおすすめします。ただし、その期に利益が出るか、キャッシュフローに支障をきたさないか、期首に判断するのは困難であり、リスクがあるので、慎重に検討する必要があります。

 

3. 自動車の「取得価額」の計算方法

3. 自動車の「取得価額」の計算方法
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自動車の減価償却の計算を正確に行うにあたって、起点となるのは「取得価額」です。取得価額に含まれるものと、含まれないものを明らかにする必要があります。

 

3.1. 取得価額に含まれる費用

車両本体価格のほか、以下のような費用が含まれます。

 

【車両本体価格以外に取得価額に含まれる主な費用】

  • 自動車の付属品(カーナビ等)
  • 納車費用
  • 中古車の未経過分の自動車税
  • 中古車の未経過分の自賠責保険料

 

3.2. 取得価額に含めなくてよい費用

取得価額に含めてもいいが、含めなくてもよい費用があります。つまり、減価償却の処理をせず、ただちに全額を、購入した年度の費用として計上することが認められています。

 

以下の通りです。

 

【取得価額に含めなくてよい費用】

  • 自動車取得税
  • 法定費用(検査登録費用、ナンバープレートの費用等)

 

3.3. 取得価額に含まれない費用

そもそも取得価額に含まれない費用は以下の通りです。減価償却の対象ではないので、当然に、購入した年度の費用として計上できます。

 

【取得価額に含まれない費用】

  • 自動車重量税
  • 自動車税(種別割、環境性能割)
  • 車検費用
  • 自賠責保険料

 

3.4. 資産計上される費用

自動車を購入する際は、リサイクル関連の諸費用を支払います。これは、あとで廃車の際に処理してもらうための対価を前払いするものなので、「前払費用」または「長期前払費用」として資産計上されます。

 

4. 自動車(新車)の減価償却の法定耐用年数

4. 自動車(新車)の減価償却の法定耐用年数
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取得価額が確定したら、あとは、償却期間(耐用年数)に応じて、各年度に減価償却をしていきます。

 

耐用年数は資産の種類・用途等に応じて法令で決まっています。「法定耐用年数」といいます。

 

法定耐用年数を用いるのは新車についてです。中古車の耐用年数については、「5.」で改めて解説します。

 

法定耐用年数は、国税庁HP「主な減価償却資産の耐用年数表」で確認することができます。自動車は「車両・運搬具」に該当します。車両・運搬具については「一般用」と「運送事業用・貸自動車業用・自動車教習所用」に分けて定められています。

 

4.1. 一般用

「一般用」というのは、事業目的のため、移動の手段や荷物を運ぶ手段として使われるものです。

 

たとえば、ダンプカー(貨物自動車・ダンプ式のもの)は、工事業に使う資材を運ぶ手段として使われます。

 

法定耐用年数は以下の通り定められています。

 

■「一般用」の車両・運搬具の法定耐用年数

細目

耐用年数(年)

自動車(2輪・3輪自動車を除く)

-

 小型車(総排気量が0.66リットル以下)

4

 貨物自動車

-

  ダンプ式

4

  その他

5

 報道通信用

5

 その他

6

2輪・3輪自動車

3

自転車

2

リヤカー

4

国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」より

 

4.2. 運送事業用・貸自動車業・自動車教習所用

「運送事業用・貸自動車業・自動車教習所用」は、自動車を使うこと自体が事業となっているものです。

 

法定耐用年数は以下の通り定められています。

 

■「運送事業用・貸自動車業・自動車教習所用」の車両・運搬具の法定耐用年数

細目

耐用年数(年)

自動車(2輪・3輪自動車を含み、乗合自動車を除く)

-

 小型車(貨物自動車にあっては積載量が2トン以下、

その他のものにあっては総排気量が2リットル以下)

3

 大型乗用車(総排気量が3リットル以上)

5

 その他

4

乗合自動車

5

自転車、リヤカー

2

被けん引車その他のもの

4

国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」より

 

4.3. 自動車(新車)の減価償却の計算シミュレーション

以上をもとに、自動車(新車)の減価償却の計算シミュレーションをしてみましょう。

 

【設例】

  • 法人・3月決算
  • 小型貨物自動車(法定耐用年数3年)
  • 取得価額(購入代金等)360万
  • 2023年9月1日利用開始
  • 定率法(償却率0.667)

 

9月1日に利用開始するので、減価償却費として計上できるのは7ヵ月分です。計算式は以下の通りです。

 

【設例の計算式】

  • 1年度あたりの減価償却費:取得価額360万円×償却率0667=240万1,200円
  • 期中の減価償却費:240万1,200円×7ヵ月/12ヵ月=140万700円

 

なお、これにより、期末の帳簿価格は、

 

360万円(取得価額)-140万700円(減価償却費)=270万円

 

となります。

 

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5. 中古車の耐用年数の計算方法

5. 中古車の耐用年数の計算方法
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ここまで解説してきたのは、新車についてです。

 

中古車については、耐用年数が新車よりも短く設定されています。なぜなら、中古車は新車より価値が減少していると考えられるからです。

 

中古車の耐用年数は、法定耐用年数を過ぎたか否かによって異なります。

 

5.1. 法定耐用年数を過ぎていない中古車|4年落ちの例

まず、法定耐用年数を過ぎていない中古車の場合、耐用年数の計算式は、以下の通りです。

 

【法定耐用年数を経過していない中古車の耐用年数】

耐用年数=(法定耐用年数-経過年数)+(経過年数×0.2)

 

この計算式だと多くの場合、1年未満の端数が出ますが、端数は切り捨てます。また、計算結果が2年未満の場合は「2年」とします。つまり、中古車の法定耐用年数は最短「2年」ということです。

 

そして、定率法の場合、耐用年数2年の償却率は「1.000」なので、1年で減価償却が終わる計算になるのです。

 

たとえば、4年(48ヵ月)落ちの中古車の場合、耐用年数は以下の通りです。

 

(6年(法定耐用年数)-4年)+(4年×0.2)=2.8年⇒2年(端数切り捨て)

 

5.2. 法定耐用年数を過ぎた中古車|10年落ちの例

次に、法定耐用年数を過ぎた中古車の場合、法定耐用年数は、以下の通りです。

 

【法定耐用年数を経過した中古車の耐用年数】

耐用年数=法定耐用年数×0.2

 

ただし、この場合も、1年未満の端数が出たら切り捨て、計算結果が2年未満の場合はすべて「2年」とします。

 

たとえば、10年落ちの中古車の場合は、以下の通りです。

 

6年(法定耐用年数)×0.2=1.2年⇒2年

 

5.3.「3年10ヵ月落ち以上」はすべて耐用年数2年

なお、よく「4年落ち(厳密には3年10ヵ月落ち)の中古車」を買うと節税対策になるといわれます。その理由は、以下の通り、計算上、2年で償却できる最短の期間が「3年10ヵ月」だからです。

 

(6年(法定耐用年数)-3年10ヵ月)+(3年10ヵ月×0.2)≒2年11ヵ月⇒2年(端数切り捨て)

 

したがって、中古車を購入することで「節税」することを考えるならば、せいぜい「4年落ち」くらいまでにしておくことが賢明だといえます。

 

なお、「節税」のためだけに中古車を購入することはまったくおすすめしません。あくまでも、事業に使用する必要性があることが前提です。

 

6. 減価償却期間中に車を「買い替え」した場合の問題

6. 減価償却期間中に車を「買い替え」した場合の問題
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減価償却期間中(耐用年数が経過する前)に自動車を買い替えた場合、課税の問題が発生することがあるので、注意が必要です。

 

すなわち、自動車を売却すると、売却代金と、その時点で減価償却費が完了した残りの「帳簿価額」との差額がプラスであれば、「売却益」が発生し、課税対象になります。

 

個人事業主の場合、売却益が50万円を超えていれば、「譲渡所得」として所得税等の納税申告が必要になります。

 

7.【参考】トレーラーハウス投資による節税とは

7.【参考】トレーラーハウス投資による節税とは
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最近、法人向けの方法として注目されている、減価償却のしくみを利用した「節税」のなかに、「トレーラーハウス投資」があります。

 

トレーラーハウスとは、タイヤの付いた家のようなものです。一定の条件をみたせば「被牽引車」(法定耐用年数4年)と扱われます。そして、定率法を使えば、初年度に取得価額の50%を減価償却できます(2年目は25%、3年目・4年目は12.5%が計上されます)。

 

たとえば、トレーラーハウスを購入し、宿泊事業者へレンタルして賃料収入を得るケースです。

 

ただし、トレーラーハウスの状態(土地に固定されている、取り外せない階段・ポーチ・ベランダがある、車輪が外されている等)によっては「建築物」と扱われてしまう可能性があります。

 

また、当然のことながら、事業がうまくいかなければ、収益を上げられず投下資本を回収できず、損してしまうことになります。

 

まとめ

まとめ
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自動車の減価償却の計算は、取得価額を確定したうえで、耐用年数に応じて、「定率法」「定額法」のいずれかを用いて行います。

 

個人事業主で自家用車が事業用も兼ねている場合は、事業用に使用した部分について減価償却できますが、明確な記録を残しておく必要があります。

 

また、自動車を購入するタイミングによっては、その事業年度内に計上できる減価償却費の額が大きく変わることがあるので、注意が必要です。特に、「節税」「決算対策」目的も兼ねて自動車を購入する場合は、購入のタイミングだけでなく、年式についても慎重に吟味することをおすすめします。

 

本記事で解説した点を理解したうえで、わからないことがあれば、税理士等の専門家に相談し、最も有利な方法を選び、かつ、正確な処理を行うことが大切です。

 

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