一家の生計を支えていた者が死亡したときに、残された家族が受け取れる「遺族年金」。会社員と個人事業主のあいだには支給額に大きな差があります。今回は、42歳・年収1,000万円の経営者が開業直後に急逝した事例とともに1級FPの川淵ゆかり氏が解説します。
42歳・年収1,000万円の経営者、開業直後に急逝…子2人抱えた妻「遺族年金支給額」に愕然 (※写真はイメージです/PIXTA)

夫は42歳で独立…直後にまさかの死去

Aさん(42歳男性)は、職場で同僚だったBさん(38歳)と7年前に結婚し、2人の子ども(5歳・3歳)をもうけました。Aさんは大学を卒業後、長年IT企業に勤めていましたが、将来のことを考え半年前に独立(個人事業主)しました。独立後もAさんの仕事は順調で、Bさんと2人の子どもとの幸せな暮らしは長く続くはずでした。独立前は年収800万円程度でしたが、会社員時代から独立を目指して準備を続けていたことが功を奏し、独立初年度から年収1,000万円を超える勢いでした。

 

しかし、そんなAさんが突然交通事故で亡くなってしまったのです。Bさんは2人の子どもを抱え、不幸のどん底に落とされました。

 

「これからどうやって暮らしていこう……」Bさんは第一子が生まれる際、育児のために仕事を辞め、専業主婦となっていたのです。ですが、Bさんは気丈にも「遺族年金もでるだろうし、なんとかやっていけるだろう」と、前向きに考えることにしました。

 

しかし、年金事務所に相談に行ったBさんは、聞いた遺族年金の金額に愕然としました。Bさんは夫を失った悲しみに加え、小さい2人の子どもを抱えた今後の暮らしへの不安に打ちのめされてしまいました。

え! 会社員時代にあんなに払ったのに…

Aさんは優秀な技術者であったため、年収も高いほうでした。そのため、半年前に辞めた会社員時代にも平均的な年収のサラリーマンよりも多い厚生年金保険料を払い続けており、「大学を卒業して約20年間も厚生年金に加入していたんだし、それなりの遺族年金はもらえるだろう」Bさんはこう思っていました。

 

ところが、年金事務所の説明は「遺族厚生年金の受給要件を満たしておらず、遺族基礎年金しか受給できません」とのことです。どういうことなのでしょうか?

 

ここで、遺族年金の仕組みについてみていきましょう。遺族年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の2種類があり、亡くなった方の年金の加入状況などによって、いずれかまたは両方の年金が支給されることになっています。

 

1.遺族基礎年金

国民年金の被保険者等であった方が、次の受給要件を満たしている場合、亡くなった方によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」が、遺族基礎年金を受け取ることができます。つまり、「子」のいない配偶者は遺族基礎年金を受け取ることができないことになります。

 

※「子」とは18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方を指します。

 

<受給要件>

次の1~4のいずれかの要件を満たしている方が死亡したときに、遺族に遺族基礎年金が支給されます。

 

1.国民年金の被保険者である間に死亡したとき

2.国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき

3.老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡したとき

4.老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡したとき

 

Bさんは「子のいる配偶者」として、受給要件の項目1を満たしていますから、遺族基礎年金を受給することができます。