一家の生計を支えていた者が死亡したときに、残された家族が受け取れる「遺族年金」。会社員と個人事業主のあいだには支給額に大きな差があります。今回は、42歳・年収1,000万円の経営者が開業直後に急逝した事例とともに1級FPの川淵ゆかり氏が解説します。
42歳・年収1,000万円の経営者、開業直後に急逝…子2人抱えた妻「遺族年金支給額」に愕然 (※写真はイメージです/PIXTA)

2.遺族厚生年金

厚生年金保険の被保険者等であった方が、次の受給要件を満たしている場合、亡くなった方によって生計を維持されていた遺族が、遺族厚生年金を受け取ることができます。

 

<受給要件>

次の1~5のいずれかの要件を満たしている方が死亡したときに、遺族に遺族厚生年金が支給されます。

 

1.厚生年金保険の被保険者であるあいだに死亡したとき

2.厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき

3.1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき

4.老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき

5.老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき

 

※項目1および2の要件については、死亡日の前日において、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。ただし、死亡日が令和8年3月末日までのときは、死亡した方が65歳未満であれば、死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいことになっています。

 

※項目4および5の要件については、保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方に限ります。

 

少し難しいですが、独立して個人事業主になった場合は項目5の受給資格の要件を満たしているかどうかがポイントになってきます。つまり、保険料納付済期間等が25年以上必要なのですが、Aさんの遺族はこれを満たすことができないため、厚生遺族年金は受給できないことになってしまったのです。

 

Bさんが受給できる遺族年金の額は次のとおりです。

 

・子ども2人の期間 月額約10.2万円年額1,225,400円(第一子が高校を卒業するまでの期間)

・子ども1人の期間 月額約8.3万円年額1,001,600円(第二子が高校を卒業するまでの期間)

・それ以降の遺族年金の支給はなし

 

もし、Aさんが老齢厚生年金の受給資格を満たしていたとしたら、Bさんの受給できる遺族年金は毎月約5~6万円は違っていました。自営業として独立の際は、万が一のために死亡保障を厚くしておく、老後のために私的年金を準備しておく、といった準備も必要です。

女性も生涯の働き方を考える時代に

小さい子どもを2人も抱えたBさんはいつまでもメソメソしていてはいられません。幸いに、Aさんの死亡保険は災害割引特約を付けており、通常の生命保険の死亡保険金にプラスされ災害死亡保険金が支払われたことと、IT事業での独立にはそれほど費用がかからなかったため、貯蓄を減らすことがなかったことです。

 

さらにBさんはAさんと職場結婚だったため、共通の元上司に相談し、在宅での仕事をもらえることになりました。Bさんは専業主婦になっていましたが、育児がひと段落したときに「いつかは復帰したい」と思っていたので、不安はあってもやる気は持てたそうです。

 

Bさんの場合はご主人に不幸があり働かないといけないケースでしたが、ほかにも女性には離婚や夫のリストラ等で働いて収入を得る必要がでてくる場合があります。Bさんは仕事を再開できるだけのスキルがありましたが、女性もこれからの時代はいざというときのためにも若いうちから生涯の働き方について考えておく必要があるでしょう。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表