40歳で年収1,200万円メーカー勤務のエリート営業マンであるAさん。マイホームを購入し、妻と子1人と幸せに暮らしていた生活が一変、悲劇に陥った事例をみていきます。
「少しでいいから働いてくれないか」妻に懇願…年収1,200万円・40歳エリート営業マンの悲劇【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

ファイナンシャルプランナーによるアドバイス

ここまでの状況を弊社でお伺いしました。失礼ながらAさんには、独身のときの将来展望のまま住宅ローンを借りたこと、奥様との意思疎通や合意形成の努力が足りないことがみて取れました。

 

家計の将来を分析していくと、Aさんの心配は的中することがわかりました。奥様の浪費分で毎月の生活費は異常に高く、住宅ローンの返済額も年収に対して不釣り合いです。単身赴任での生活費も節約しても一定以上は必要で、さらに家計を圧迫しています。このままでは貯蓄はあっけなくゼロになり、老後には退職金で返済できないほどの借金が残ることになります。

 

急いで対策を取らなければなりません。まずはいまの年収に生活水準を合わせることから始めるべきなのですが、Aさんは奥様の協力が得られる気がしないと弱気です。しかし少なくとも毎月の生活費や貯蓄からブランドバッグなどを買う癖をやめなければ元も子もなくなります。奥様が貯蓄の口座から引き出せる状況はやめるべきでしょう。口座の通帳やカード類は返してもらい、これは子供の大学資金なので買い物には使えないのだと理解してもらう必要があります。

 

また、奥様が家計をすべて管理するというスタイルも辞めるべきです。浪費が続いていることを正直に指摘し、しばらくは毎月家計会議をしながら収支を共有できないか十分に話し合うべきです。もちろん奥様の自尊心を傷つけないよう慎重にお話ししなければなりません。

 

しかしAさんが心配するように奥様が家計の危機を共有するつもりがないままでは、これまでと同じように被害者となってしまう危険があります。その場合は「家族」を形成する意思がないのだと冷静に判断することも、選択肢のひとつとして持っておくべきでしょう。

 

Aさん自身が当初の住宅購入で勘違いしていたこともあります。当時相談したファイナンシャルプランナーに知識が不足していたせいもあるかもしれません。ネット銀行で借換えをする計画を立てていたようですが、最初に全額ローンで組んだ場合、借換えは難しくなります。ネット系銀行は特に、物件(土地・建物)の担保価値を重視する傾向があります。担保価値に対して借入額が多い=オーバーローンとして、融資を断ることが多いのです(担保価値に対する融資率は金融機関で差があります)。

 

借換えを考えるならば、最低でも諸経費相当額を自己資金として最初に入れておくか、借り換え前に繰り上げ返済をして元金を減らすことが必要です。また、将来の収入がAさんのように減ってしまうことは、最初の購入時の「リスク」として資金計画に織り込んでおくべきでした。それは単純に資金計画を減らすというだけではなく、維持費のことや家族の人数が増えること、家族が病気になることも含めて対策を取っておく必要があります。

 

Aさんは自宅の売却や、単身赴任を解消するために転職も考えているようでしたが、より傷を深めるだけです。自宅は思いどおりの金額では売れないし、転職するとさらに年収は下がる可能性は高いでしょう。劇的な改善策というよりも、当たり前のことをするだけのことです。

 

・収入に見合った支出に削減し、貯蓄に回すこと

 

・計画的で無理のない資産運用で老後資金を増やす努力をすること

 

・夫婦でお金について話し合う習慣を持つこと

 

この3つしかやれることはありません。まさに家計運営の基本です。副業を持つという手段もあるかもしれませんが、それ以前にやるべきことがあります。Aさんは年収が下がったといっても、決して低所得ではありません。そこを自覚して家計改善できるかどうかは、夫婦の意思にかかっています。

 

 

長岡理知

長岡FP事務所

代表