(※写真はイメージです/PIXTA)

長寿サプリとして「NMN」が話題となっている中、長寿研究の最前線では、90年代に日本が発見した物質「5デアザフラビン(TND1128)」に注目が集まっています。5デアザフラビン(TND1128)にはどのような効果があるのか。本稿では「ミトコンドリア活性化」という機能に着目して見ていきましょう。銀座アイグラッドクリニック院長・乾雅人医師が、整形外科領域における実際の投与例を紹介します。

5デアザフラビン(TND1128)の可能性

今回は、5デアザフラビン(TND1128)投与の実臨床例紹介の第3回目となります。

 

同物質は、主機能であるミトコンドリアの活性化、サーチュイン遺伝子の活性化の2点において、NMNの上位互換と認識されています。私は当初、薬学に基づく基礎研究の結果から、NMNとの違いはこれらの活性の程度、“量的”な違いが主で、“質的”な違いはないと予測していました。

 

しかしながら、前稿では、ミトコンドリア活性が“特別に強力である”ことにより、難治性の喘息発作や、難治性の冠動脈の攣縮が治療できた事例に触れました(関連記事「【老化治療】アンチエイジングだけではない。「ミトコンドリア活性化」の“意外な効果”」をご参照)。

 

実は、同様の事例は、整形外科領域でも経験しています。脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)や頚椎症、椎間板ヘルニアなど、骨や椎間板などの構造物が変形・移動することによる“物理的刺激”が原因となり、痛みや可動域制限などの症状が出る類の疾患に対しても、有効だったのです。

 

通常、このような疾患に対しては物理的刺激の除去、すなわち、関連する組織の移動(靭帯を緩める、筋膜リリース、骨格矯正等)などでしか症状の緩和は得られません。それがどうして、5デアザフラビン(TND1128)による“化学的”な作用で症状の緩和が得られるのか。

 

恐らく、5デアザフラビン(TND1128)に固有の、ミトコンドリアの“特別な活性化”により、Ca2+イオンが細胞外に排出される仕組みに由来するのでしょう。同物質を十分量投与して3時間経過すると、神経細胞の外部刺激に対する反応は“大幅に”抑制されるのです。すなわち、神経細胞が、外的な刺激に対して“鈍感”になるのです。これが、関係していると推測します。

 

今回も、「想定外の福音」として得られた事例(Case)から、逆説的に理論科学(Science)への洞察が得られた実体験となりました。

アンチエイジング目的で投与したら…

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【症例:49歳・男性 頚椎症、後縦靭帯硬化症、脊柱管狭窄症】

生来健康な男性。35歳ごろ、右肩~右首に疼痛を自覚。マッサージや鍼灸などによる治療を試みるも、症状の改善は限定的だった。44歳時、近隣の医療機関を受診し、頚椎症、後縦靭帯硬化症、脊柱管狭窄症と診断。手術による加療目的に都内の整形外科病院を紹介受診。手術に伴う合併症リスクと現在のADL(Ability of Daily Life、日常生活でできる行動)を考慮し、経過観察中であった。当院を受診する前は、肩の痛みで腕が上がらず、スーツを一人で着られない、ゴルフはハーフスイングしかできない、睡眠中に痛みで覚醒する、程度だった。

 

■仮診断*:なし(アンチエイジング目的での投与。処方時、脊柱管狭窄症、頚椎症は既往歴と判断)

(*診断は、治療が奏功した段階で初めて証明され、確定診断となります。臨床医による予測を「仮診断」といい、仮診断の段階で行う治療行為を“診断的治療”と呼びます。)

 

■処方:5デアザフラビン(TND1128)(100mg)1C1X朝 投与

 

内服開始後1ヵ月で、症状の軽快を認めた。運悪く、内服開始後3週間で、助手席に同乗した乗用車が交通事故に巻き込まれ、肋骨骨折、むち打ち症を伴った。一時的に原疾患の症状増悪を認めたが、1週間後には軽快を認めている。投与後2ヵ月経過した状態で、スーツを一人で着替えることができ、ゴルフのスイング幅も広がっていることを実感。疼痛が原因で夜間目覚めることもなく、QOLは格段に上昇している。

 

また、健康診断では、HbA1cや空腹時血糖値、中性脂肪、尿酸値の改善など、生活習慣病に関連する項目のほとんどの改善を認めている。

 

⇒確定診断:頚椎症、後縦靭帯硬化症、脊柱管狭窄症

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考察:“特別に強力な”ミトコンドリア活性化により、神経細胞が外部刺激に対して反応性が乏しくなっていると思われる。結果、頸椎や脊椎などが中枢神経や神経根に接触した(物理的刺激が発生した)際に起きる炎症の軽減に繋がったと考える。結果、神経細胞のむくみ改善に繋がり、ごくわずかながら頸椎や脊椎と神経細胞との間にスペースが増したと考える。増大したスペースの分は物理的な距離の生成に他ならず、症状の緩和に直結したと考えても矛盾しない。

超高齢化が進む今、老化治療を社会実装させるには

今回紹介した事例以外にも、脊柱管狭窄症による疼痛が改善した症例が複数存在します。このような症例では、各専門科の学術団体地方会での口頭発表とするのが一般的です。今回の症例では、整形外科学会の地方会、関東整形災害外科学会での発表が妥当なのでしょう。

 

しかしながら、現状、私一人ではそこまで手が回りません。それゆえ、一人でも多くの医師の方との連帯を求めています。

 

整形外科領域に限って言えば、ミトコンドリア活性による活動性の向上、フレイルの予防に加え、今回のような頸椎や腰椎の変形による神経に対する物理的な刺激による疾患の治療にも期待できます。

 

いきなり“正しさの証明”である介入研究は行えません。まずは、少しでも良くなる可能性があるなら使用してみる、というスタンスの観察研究を行う仲間が欲しいのです。その“観察研究”によるプレリミナリーなデータが蓄積した暁には、大学病院などを巻き込んでの臨床研究に導くことができます。

 

社会の声に丹念に耳を傾け、人類の歴史を丁寧に紐解けば、当代を生きる医師が担うべき役割は明確です。

 

『社会資源である医師同士の連帯を』。

『人類は老化という病を克服する』。

 

 

乾 雅人

医療法人社団 創雅会 理事長

銀座アイグラッドクリニック 院長