(※写真はイメージです/PIXTA)

アルツハイマー型認知症は徐々に進行する病気ですが、短期間で症状が進む場合があります。認知症を進ませる要因や認知症を防ぐ生活習慣などを見ていきましょう。きくち総合診療クリニック院長・菊池大和医師が解説します。

そもそも「認知症」とは?

認知症とは、病気の名前ではなく、症状の総称を表します。

 

人間の活動は、脳(脳の神経細胞)が正常なときに可能になるものですが、なんらかの原因で神経細胞が死んでしまうと、物事を覚えたり、判断したり、行動したりすることができなくなっていきます。

 

つまり、認知症の症状は、神経細胞が死んでいけばいくほど悪化していきます。逆に言えば、認知症になりにくくすることや、早期発見、早期治療が可能であるということです。ここでいう早期治療とは、完治という意味ではなく、症状を遅らせるという意味です。いわゆる徘徊をしたり、家族を忘れてしまったりなどの重症化に至らないように、私たちはやるべきことがあります。ただ一度認知症になると、つまり神経細胞が死んでしまうと、元に戻れないのです。

 

認知症の症状を呈する疾患はいくつかありますが、認知症と聞いて通常私たち思い浮かべるのは「アルツハイマー型認知症」だと思います。認知症になる原因は300以上あると言われていますが、認知症になる原因疾患の割合は、アルツハイマー型認知症が70%弱、脳血管障害が20%弱と、両者で約90%を占めます。本稿ではアルツハイマー型認知症についてお話しします。

現在、約400万人が「認知症の前段階」にいる

日本では高齢化が進むと同時に、認知症の方も増えています。厚生労働省の統計では、2025年には約700万人、65歳以上の5人に1人が認知症になると予想されています。また、認知症には必ず前段階があり、それを「軽度認知障害」と言います。軽度認知障害は、適切な予防をすればもとに戻る段階ですが、放っておくと50%の方が認知症になる状態です。現在400万人いると予想されています。

 

アルツハイマー型認知症の原因は、まだはっきりとはわかっていません。わかっているのは、脳内の老廃物である「アミロイドβ(ベータ)」や「タウたんぱく」というたんぱく質が異常に蓄積することが、脳の神経細胞の死に関わっているということです。この2つのタンパク質は、健康な人も年をとれば蓄積されますが、アルツハイマー型認知症の方は早い段階で病的に蓄積され、神経細胞が死に、脳が萎縮していきます。

通常、認知症は時間をかけて進行していくが…

認知症というと、徘徊したり、なにもかも(家族の名前も)憶えていなかったりなどの状態を想像しますが、いきなりそうはなりません。

 

アルツハイマー型認知症は、必ず時間をかけて症状が悪くなります。認知症は、年単位で進みますので、昨日は普通で今日はおかしいというのは、アルツハイマー型認知症ではありません。

 

まず初期段階として、2~3年あります。この期間はまず「記憶力の低下」が起こります。

 

最初は本人が物忘れを自覚することもあります。また、今まで興味のあったことに無関心になったり、情緒不安定になったりしますが、日常生活は送れます。

 

中期段階は、4~5年あります。この期間は日常生活に支障が出てきます。この期間は、ものの場所がわからない、食べたことを覚えていない、道具などをなにに使えばいいかわからないということが起きてきます。夕ご飯を何度も食べたり、買い物へ行ったきり帰ってこられなかったり、昼夜が逆転して夜に寝られなかったり、そのほか不穏(急に攻撃的になったり興奮したりする状態)、徘徊、幻聴、幻覚、失禁が見られます。ご家族にとって最も介護が大変な時期になります。

 

後期段階は、なにもできなくなります。食事、着替え、排泄、入浴は、やり方がわからないため、本人は動けません。興味もなくなります。家族に「あなた、だれ?」と言うのもこの時期です。

認知症が一気に進む原因とは?

さて、次に認知症が一気に進む原因をお話ししたいと思います。

 

前述しましたように、アルツハイマー型認知症は徐々に進行する病気ですが、短期間で症状が進む場合があります。それは、「脳に刺激がなくなったとき」です。

 

つまり、夫が亡くなって一人暮らしになった、友達がいなくなった、運動しなくなった、家にいる時間が長くなった…など、一人ぼっちになったときです。

 

私たちは、見たり、聞いたり、話したり、体を動かすことで脳に刺激が伝わり、神経細胞を活動させます。刺激がなくなると、神経細胞が使われないために、死んでいくのが早くなってしまいます。逆に言えば、認知症にならない予防もできます。

「中年からの積み重ね」が重要。認知症を防ぐ習慣

脳を刺激するには、「考える」「思い出す」「体を動かす」などの脳のトレーニングが有効です。たとえば、買い物する前に、料理の献立を考え、ノートにまとめて、買い物の順番を決めたり、2日前の出来事を日記にしたりします。

 

週に3回ほどの運動は筋肉の衰えを予防し、寝たきりを予防しますし、体を動かすことで脳の神経細胞が刺激され、外出にも積極的になれて、人生が楽しくなります。

 

運動と同じぐらい大切なのは、食事です。1日3食バランスよく食べることです。これは、40歳あたりから気を付けないといけません。炭水化物や脂質が多い食事は、体内で「活性酸素」という強い酸化作用を持つ物質が多くできて、体内の臓器を酸化させてしまいます。これにより、がんや老化が早まってしまいます。

 

高血圧や糖尿病は認知症にも大きく関連が言われていますので、40代のときから体重を増やさないようにして、運動・食事に気を付けないといけません。アルツハイマー型認知症は、高齢者のだけの病気ではないということです。20年、30年の蓄積が70代で現れてしまいます。

 

今から良質なたんぱく質と野菜中心の食事にしてください。

「なんだかいつもと違う」は要受診のサイン

周囲の方、特にご家族や友人に、「なんだかいつもと違う」と指摘されたら、迷わずかかりつけ医に相談しにいきましょう。同じ話をする、人付き合いが悪くなる、化粧しなくなる、「あれ、なんだっけ」と言うなどがあれば、認知症を疑います。認知症の検査して異常がなくても、定期的に通院して、主治医に自分の状態を知ってもらうのが安心です。

 

軽度認知障害の段階で、生活習慣の改善や運動をすれば、50%の方が元に戻れます。また認知症の疑いあれば、早期に治療(内服)すれば、進行のスピードを遅らせることができます。

まとめ:認知症を早期発見し、重症化を防ぐために

以上をまとめますと、まず、認知症の方は増えています。65歳以上の方の5人に1人が認知症です。

 

どんな病気も予防、早期発見、早期治療が必要です。認知症も同じです。

 

今からできることは、バランスのいい食事、適度な運動、家にこもらないで外に出ることです。

 

そして、家族、友人におかしいと言われたら、かかりつけ医に相談することです。普段からなんでも診てくれるかかりつけ医がいれば、こんなに安心なことはありません。

 

 

菊池 大和

医療法人ONE 理事長 

きくち総合診療クリニック 院長