(※写真はイメージです/PIXTA)

現在、がんの手術を中心に「ロボット手術」が非常に身近な存在となりつつあり、保険適用となる疾病も拡大しています。本稿では、「乳がん」におけるロボット手術の応用について見ていきましょう。乳腺外科医・尾崎章彦医師が解説します。

ロボット手術とは?

現在、筆者が所属する施設において実施を目指しているのが、乳がんにおけるロボット手術です。すなわち、自分の目で直接術野を見ながら、電気メスやその他の器具を用いて、患部を切除するのではなく、ダビンチと呼ばれる手術支援ロボットを用いて、同じような手術を実施しようとしているのです。本稿においては、乳がん手術の最先端の話題と言えるロボット手術についてご説明します。

 

さて、まずロボット手術と言っても、自分が実際に手術を受けたり、あるいは身近なところでこの手術を受けたりした方がいらっしゃらなければ、なかなかイメージがつかないという方も多いのではと思います。

 

ダビンチは、米国のIntuitive Surgical社が製造する内視鏡手術用の手術ロボットであり、ロボット本体と操作台、助手用のモニターで構成され、ロボット本体には3本のアームと1本のカメラが装着されています。そして、術者はコクピットのような操作台(サージョンコンソールと呼ばれます)に座ってアームやカメラを操作します。

 

その最大のメリットは、直感的かつ繊細で正確な手術操作が可能である点です。そして、それを可能とする特徴がダビンチには存在します。一つは、鮮明な3Dカメラやダビンチのアームです。ダビンチのアームの先端には複数の関節があり、執刀医の指・手の動きの通りに操ることが可能となっています。一方で、腹部外科領域などでこれまで主流であった通常の内視鏡手術において用いられる器具には、関節などはなく、直線的な動きのみが可能でした。さらに、ダビンチにおいては、執刀医の手の震え(カメラでいう「手ブレ」)が自動的に取り除かれて手術機器に伝達されます。無論、そのような仕組みは、通常の内視鏡手術で用いられる既存の器具には存在しませんでした。

すでに様々な疾病が保険適用でロボット手術を実施

このような特徴を持つダビンチは、日本の医療界にも歓迎されており、現在、ダビンチを用いたロボット手術は、がんの手術を中心に大変身近な存在になってきています。具体的には、胃がんや大腸がん、前立腺がんなど、すでに様々な疾病が国民皆保険制度のもとでロボット手術の適応を獲得し、広く実施されているのです。

 

実際、筆者が所属する医療機関においても最新鋭のダビンチである「da Vinci Xi」が導入されており、特に泌尿器科領域において、前立腺がんや膀胱がん、腎がんに対して、多くのロボット手術が実施されています。直感的に手術を実施できるので、医療者のストレスが少なく、また、患者の回復も早いと評判です。また、若手医師にもダビンチ手術を実施するチャンスがあり、医師リクルートにも繋がっています。このように、ダビンチ手術は当院の大きなウリになっていると言えるでしょう。

 

ちなみに、泌尿器科領域は、様々な診療科の中でもロボット手術が特に盛んな分野ですが、それ以前には通常の内視鏡手術が多く実施されていた時期もあったそうです。しかし、先ほどに述べたようなダビンチの特徴から、ロボット手術の操作性は通常の内視鏡手術のそれを上回っており、ロボット手術があっという間に主流になったということでした。

乳がんにおけるロボット手術の応用

そのような中、乳がんは、ロボット手術の流れから取り残されており、現状、保険収載に向けた動きは緩慢です。胃がんや前立腺がんと異なり、乳がんは、体表に存在する乳房に発生するがん腫です。そのため、直接目で見ながら電気メスなどを用いて手術を実施することが自然であり、手術による体への負担も、開腹して胃がんや前立腺がんを手術した場合と比較して、相対的に小さいと言えます。そのため、ロボット手術などを実施することの患者へのメリットは大きくないと考えられてきました。

 

しかし、現在少しずつ、乳がんに対してもロボット手術を実施するという機運が高まっています。具体的に対象となっているのは乳頭温存乳房切除術という術式で、インプラントなどを組み合わせての再建手術などの際に実施される手術です。この術式については、通常の方法でアプローチすると、しばしば視野が悪くなる可能性があります。その点、ダビンチを用いることで、より安全に手術を実施できる可能性が、海外の論文などで報告されています。実際、亀田総合病院など、国内の一部の施設でもすでに実施されており、国内の学会などでも発表されています。

 

このような状況を踏まえ、少しずつ当院においても、ロボット手術を取り入れることができないか検討を始めたところです。もちろん、最も重要なことは患者さんにメリットがあることです。慎重に、かつ、積極的に、新しい技術の可能性について検討し、地域の患者さんに貢献することができればと考えています。

 

 

尾崎 章彦

常磐病院 乳腺外科医

 

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。